鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

赤毛のアン

モンゴメリの『赤毛のアン』。夏休み文庫フェアではレギュラー・メンバーとも言える一冊です。

赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ〈1〉 (新潮文庫)

Anne of Green Gables

 数ある楽しいエピソードの中の一つが「虚栄の果て(Vanity and Vaxation of Spirit )」。

 赤毛にコンプレックスを持つアンが、マリラの留守中、イタリア人の行商人から「輝く黒髪」に染まるという毛染めを買って、さっそく染めてみたら「緑の黒髪」ならぬ「緑の緑髪」に仕上がってしまったというお話。その色はかなり変にくすんだ青銅がかった緑色で、根元部分の染まっていない赤毛とあいまってゾッとするような結果になって、マリラをびっくりさせます。

 そして厳しいお叱りの言葉。

"Well, I hope you'll repent to good purpose," said Marilla severely, "and that you've got your eyes opened to where your vanity has led you, Anne. Goodness knows what's to be done. I suppose the first thing is to give your hair a good washing and see if that will do any good."

 「虚栄の結果がどうなったか、よくわかったでしょ?」

 アンは赤毛以上にこの緑の髪は最悪だと嘆きます。意地悪なジョシー・パイに笑われると思うとたまらない。プリンスエドワート島の中で一番不幸な女の子だわ...と。

 一週間の間、マリラとアンは何度もシャンプーを試みましたが、染めた色は落ちません。そしてついに髪を切ることになります。鏡に映る髪を切った自分の姿を見ないと言っていたアンですが、意を決して見ることを決めます。このぶざまな姿を毎日見れば、つまらない見栄を張ることを考えなくなるからと、猛省するわけです。

 

 さて、友人たちのSNSを見ていると、いわゆる「リア充」生活を送っている人が何人かいます。仕事もプライベートも充実して、掲載される写真からは「所帯じみた」匂いは一切なく、おしゃれな手料理もアップされ、水仕事しているのにネイルは剥がれることもなく...。休日の過ごし方も彼女たちはあれこれと多忙を極め、読書とPCいじって休日の大半を過ごしている私は、羨望の眼差しで彼女たちの更新記事を見ていました。

 先日そんな一人と偶然会う機会がありました。

 「フェイスブック見てるわよ。この間、おしゃれなお皿に盛り付けたシーフードサラダがすごくおいしいそうだったけど、具材は何を使っているの?」と切り出した私。

 「え?あ、あれ?あれねぇ....。」

 「.....?」

 「あなただから言うけどさ、実はデパ地下のお惣菜なのよ。」

 「え?」

 「私の職場でいま、料理が流行ってるの。クッキングスクールとか通ってる子もいてね。みんな手料理作るたびにFBにアップするのよ。独身の若い子たちも作っているのに、結婚している私が料理しないって思われるのも癪じゃない?だからあれは演出なの、演出。うふふ。」

 なんだかうれしそうに秘密を打ち明けてくれましたが、以前はそんな見栄をはるような人ではなかったのになあ...とがっかりした気持ちになりました。そのがっかり感は彼女に対してもそうですが、実はそれ以上に「リア充」演出を羨ましいと思っていた自分の浅はかさにがっかりというのが正直なところです。SNSは実際に会う機会が少ない人たちの近況を知るには便利なツールですが、多くの人に見られる意識が働いてしまうがゆえの悪気のない虚飾なんでしょうね。

 私も大いに虚栄心があります。アンのように自分のコンプレックスを隠そうとするための虚栄もあれば、競争心からくる虚栄もあります。虚栄がバレたときの気まずさや恥ずかしさ、後悔は自分自身に降りかかりますが、自分を信頼してくれた人をがっかりさせてしまうことも肝に銘じておきたいと思います。