なにかと話題の百田尚樹氏の作品。
『夢を売る男』
百田氏の作品はこれが初めてです。
自費出版(作品では共同出版)をテーマに、出版界、作家、作家希望(フリーター、有閑マダム、団塊世代の定年退職者など)の人たちについて、編集長の牛河原を通して、するどい洞察が冴えわたっています。部下の荒木が絡むことで、コメディのような会話がおもしろおかしくもあり、一気に読んでしまいました。
また、作家が新しい読者を開拓するにはどうすればいいのか、牛河原と荒木の会話の中に著書自身のことも盛り込んでいます。自虐ネタでしょうか。
「それはそうだ。だからたいていの作家は、自分の得意料理だけを後生大事に作り続ける」
牛河原の言葉に、荒木はうーんと唸った。
「かといって、元テレビ屋の百田何某みたいに、毎日、全然違うメニューを出すような作家も問題だがな。前に食ったラーメンが美味かったから、また行ってみたらカレー屋になっているような店に顧客がつくはずもない。しかも次に行ってみれば、たこ焼き屋になってる始末だからなーー」
「馬鹿ですね」
共同出版の売り上げを伸ばすために、カモになりそうな相手には、どんな駄作でも美辞麗句を並べ立ててその気にさせる牛河原ですが、編集長としてのプライドは失わないところが救いとなっています。
本を出したい人たちのキャラクターたちは、荒木の言葉を借りればまさに「馬鹿ですね」。ときには大笑いしてしまうほどおかしいのですが、実は自分にあてはまる部分もあって、そのあたりはチクリとくる皮肉な感じもこの作品の魅力だと思います。