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鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

八甲田山死の彷徨

 関東地方の梅雨明けが発表になり、夏本番となりました。体温並みの猛暑日にはこんな小説が暑さを和らいでくれそう。毎年夏になると再読したくなる一冊があります。

 『八甲田山死の彷徨』

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

  日露戦争の前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験とも言える訓練が行われました。神田大尉が率いる青森五聯隊は雪中で進退を協議しているときに、大隊長が突然、前進の命令を下したことで、指揮系統が混乱して200名近い犠牲者を出してしまいます。一方、少数精鋭の徳島大尉が率いる弘前三十一聯隊は210キロ、11日間にわたる全行程を完全踏破しました。

 混乱を起こした状況に腹ただしさを感じ、厳しい吹雪の中で次々と命を落としていく隊員たちの姿はあまりにも痛ましく、精神に異常をきたし裸で川に飛び込む兵士や低体温症で意識が朦朧とする壮絶な様子は読んでいるうちに苦しくなります。

 辛く悲しいお話ですが、この作品には、案内人として雇われた村人たちの雪国の知恵が盛り込まれています。衣服を湿らすことの恐怖は、現在の登山にも共通していることですし、現在のような手軽な食品や軽量の保温ジャーのない時代、氷点下の中では食料がほとんど凍ってしまう状況で、カイロ代わりに焼きおにぎりやお餅を腹巻に入れたりするのは先人の知恵といったところでしょうか。

 上官の命令一つを誤ったために混乱を招き大惨事になってしまった八甲田山の訓練。神田大尉と徳島大尉の二つの聯隊が明暗を分けたわけですが、そこからリーダーシップの責任とリスクが学べるのではないかと思います。 

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