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鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

第四権力 巨大メディアの罪

 経済小説は映像化されている作品も多いので、わりと好きなジャンルですが、高杉良の作品を読んだのはこれが初めてです。

 

『第四権力 巨大メディアの罪』

第四権力 巨大メディアの罪 (講談社文庫)

 行政、立法、司法に次ぐ権力として「メディア」を第四の権力として捉えたものです。でも、メディアは「エンターティメント産業」の側面もあるので、権力までいけるかどうか...。

 東日テレビを舞台に、社長や会長の役員人事をめぐる攻防を描いたものです。東日新聞や大手広告代理店電光の影響の大きさが表現されているものの、具体的にその会社の人物が登場するわけでもなく、東日テレビ内の権力闘争を中心にストーリーが進み、権力を振り回す新社長の瀬島をなんとか阻止しようと藤井靖夫堤杏子が策を練るものの、瀬島と直接対決することもなく、副社長の木戸や大株主を使ってあの手この手の策を練っていくだけなので、おもしろさに欠ける気がします。ただ、スポンサーのスキャンダルをつかんでも放送できない葛藤から辞めてしまった同僚の辻本が、堤の計らいで他局のコメンテーターになるなど、コネがすべてという部分はリアリティがありました。

 また、40代半ばの藤井と、54歳の女子アナ出身の局長の堤が恋仲になる必要もないんじゃないかと思いました。お互いのマンションを行き来し、テパ地下のデリや堤が作る手料理に高級ワインという設定はいかにもありきたり。

 二人が久しぶりに藤井のマンションで過ごす会話。

 杏子が四周を見回した。

「懐かしいなぁ。このマンションは二度目ですけど、どのくらい経ったのか覚えてる?」

「二〇〇七年十一月三〇日から一二月一日にかけて、いらっしゃったんです。写真誌だか女性誌におっかけられてたんですよね」

「きょうは二〇〇九年五月十五日だから、一年半近くなるんだ」

「二〇〇七年十一月三日は忘れ得ぬ日です。二〇〇八年一月二七日の高尾山もそうですけど」

「ほんとうね。まだ夢心地だわ」

  すでに男女関係にある二人なんですが、「去年」とか「一昨年」とか言わず、手帳やカレンダーを見ることもなく、思い出を西暦年月日で語り合うのがテレビ業界では普通なんでしょうかね。情事の前後に交わされる会話も食事中の会話もほとんど社内の権力闘争のはなし。藤井には付き合っていた彼女がいましたが、堤との関係が深くなるにつれ、都合よく姿を消していくし、二人の関係は社内で内密になっていて誰も気づかないあたりも都合がいいというか...。

 タイトルからダイナミックな展開を期待していましたが、物足りなさが残った作品でした。