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鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

大方言

文芸 新書

 かかりつけの歯医者さんが結構遠いので、移動や待ち時間は読書タイム。行きの電車の中で読みかけの本を読み終えてしまったので乗換駅の御茶ノ水で「丸善」に立ち寄ると、「炎上覚悟」の赤い字が目に入りました。

 百田尚樹の『大方言』

大放言 (新潮新書)

 帯を読むだけでも著者の鼻息の荒さを感じます。

 ゆっくり立ち読む時間はないので、パラパラっとめくると「バカ」の文字が飛び込んできました。同著者の『夢を売る男』に出てくる荒木が、頻繁に口にしていた“バカですね”を思い出し、おもしろそうなので購入しました。雑誌感覚な読みやすさがあって、歯科の待合室と帰りの電車の中で読了できました。

 若い世代、マスコミ、政治家に対して、百田氏の「放言」があふれています。やればできると思っているバカ」や「売れなくていいならブログに書け」は、『夢を売る男』に出てくるシーンと重なりました。

 思わず吹き出しそうになったのが「自分を探すバカ」。世にも奇妙な会話として、テレビ制作会社の社長とその会社を辞めたいという若い社員の会話が紹介されています。

「なんで会社を辞めるんや?したいことがあるんか?」

「自分探しの旅に出ます」

「お前はここにおるやないか」

「そんなんじゃなくて……本当の自分を探すためにインドに行くんです」

「お前のルーツはインド人か?」

「違いますけど」

「長いこと行くんか?」

「とりあえず半年くらい」

「半年で、自分が見つかるんか?」

「さあ」

「自分が見つかったら、何するんや?」

「まだ決めてません」

 会話というより漫才です。著者は今どきの「自分探し」は悲壮感もなく、レジャー気分でSNSにアップして友人たちのコメントがつくのを楽しんでいるようで、観光旅行と同じだと指摘しています。

 第四章の我が炎上史”では一連の炎上騒ぎについて述べています。その中で

 前後の文章の脈絡をわざと無視し、喩え話であっても喩えとは取らず、反語的表現であっても敢えてそのまま受け取って、大批判する。

 こうなれば私のような小説家は大変不利である。作家は喩え話をするし、敢えてどぎつい表現もする。皮肉も交えれば、反語的表現もするからだ。

 公の場で発言することは、聞き手が100%理解してくれるわけではありませんし、言葉の受け取り方も人それぞれです。マスコミが前後の文章の脈絡を無視して反語的な表現だけを拾ってくることは、公の場で発言される人たちの悩みどころかもしれません。ですから、発言される方たちは慎重に言葉選びをされているのではないでしょうか。ストレートな物言いは悪いとは思いませんが、TPOの配慮も必要だと思いました。

   元テレビマンだけあって、社会的な現象やいわゆる流行についての鋭い視点や洞察力は冴えているなと感心する一方で、政治や外交について少し首をかしげる部分がありました。やんちゃ坊主がそのままおじさんになっちゃったという印象でした。

 

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