先日の三連休に行われたNコンことNHK合唱コンクール。毎年欠かさず見ている母親に付き合って、高校生の部を見ました。
毎年、テーマをもとに、小、中、高校の課題曲が発表されますが、私が特に注目しているのは高校生の課題曲です。現在活躍中の詩人のみならず、著名な作家たちによる書き下ろしもあるので、発表は密かに楽しみにしていました。
今年は穂村弘作詞の『メープルシロップ』。過去には銀色夏生『僕が守る』、谷川俊太郎『いのち』、吉野弘『走る海』、石田衣良『あの空へ〜青のジャンプ〜』、五木寛之『青春譜』、瀬戸内寂聴『ある真夜中に』、大江健三郎『「新しい人」に』、島田雅彦『また、あした』など、そうそうたる顔ぶれです。
個人的には寂聴さんと五木氏の作品が好きです。
ある真夜中
どこかの星の 熱いため息が
花びらになって 降ってきた
花びらとなり、雪となり、たとえあなたにたどりつけなくても、私はしあわせ...という一途な思いを言葉にしたためています。
『源氏物語』を現代語に訳した寂聴さんだけに、歌詞の言葉もどこか雅な雰囲気があります。
五木寛之『青春譜』
孤独という 旅の途上に
いつか 君は出会う 愛の光
息をとめ 見つめ合う
言葉もなく ときの彼方へ
「旅立ち」は若者向けのテーマの定番と言えますが、「明るい未来とか希望がまってま〜す」的な展開とはちがい、五木氏は「今」に軸足を置いているように思います。
この一瞬を 永遠に刻もう
青春は こわれやすい 季節だから
五木氏の講演や記事でときどき、人生の四季(青春、朱夏、白秋、玄冬)に触れていますが、人生論をテーマにした本をいくつも出されているだけに言葉に重みを感じます。
小説とちがって、歌詞は言葉の数が限られているので、わずかな一語で作品の雰囲気が変わるように思います。そんな限られた文字数で、しかも平易な言葉で、ときめきやよろこび、孤独や不安をしっかり伝えることができるのは、言葉の選び方というか言葉のセンスがずば抜けているとしか言いようがありません。
合唱曲ですからメロディーにのって作品を楽しむわけですが、個人的な感想を言えば、高いキーが続くメロディーでソプラノがヒステリックに歌い上げたりすると、何を歌ってるのか全然わからなくて、せっかくの歌詞がもったいないなと思うときがあります。
五木氏の『青春譜』は歌詞が聴きやすいメロディーでドラマティックに仕上がっていて、合唱曲としてはこの作品が気に入っています。