冒頭、最初の一行目。
ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。
似た者夫婦の話なのかしらと読んでいくうちに、主人公の専業主婦「サンちゃん」と「旦那」の気だるい空気に包まれてしまいました。
サンちゃんは初婚、旦那は再婚。旦那は元妻との結婚生活では格好つけすぎて疲れてしまったせいか、サンちゃんとの結婚では、自分をさらけ出すことにしていて、家では何も考えたくないというタイプ。この旦那のダラダラぶりや、そんな旦那を受け入れているサンちゃんの緩さというか穏やかさが気だるさの原因かもしれません。
弟の彼女が話す「蛇ボール」の例え話で、サンちゃんのモヤモヤが腑に落ちます。
おそらく私は男たちに自分を食わせ続けてきたのだ。今の私は何匹もの蛇に食われ続けてきた蛇の亡霊のようなもので、旦那に呑み込まれる前から、本来の自分の体などとっくに失っていたのだ。だから私は、一緒に住む相手が旦那であろうが、旦那のようなものであろうが、それほど気にせずにいられるのではないか。
夫婦間の馴れ合いとか、妥協し合うことで互いの顔や行動もどんどん似ていくことに、この主人公は何かしらの喪失感や焦燥感、恐怖感とか感じなかったのでしょうか。彼女の無気力感が少し気持ち悪いです(笑)。
やがて旦那のダラダラぶりは、テレビからゲームに変わり、そして次は天ぷらやフライの揚げ物を作ることへと変わっていき、家事の領域へと進み、専業主婦のサンちゃんを苛立たせていき、ラストシーンへと向かいます。ただ、私には予想外の結末で、ちょっと拍子抜けな感じでした。最初から最後まで「気だるさ」を感じた作品でした。