読むと食べたくなる一冊。
『ずっしり、あんこ』(河出書房新社)
読者登録させていただいているアキ・ラメーテさんのブログで紹介されてからずっと気になっていた一冊でした。
実店舗で現物を見てから買いたいと思いながらずっと探し回っていて、先日ようやく見つけました。
タイトルのみならず、著者の面々もかなりずっしり。芥川龍之介をはじめ、池波正太郎、井上靖、上野千鶴子、手塚治、酒井順子などなど、目次を見ただけでもわくわくします。
その中で男性の著者たちの「あんこ」という甘味に対する思いがおもしろかったです。「こしあん」か「つぶあん」かという定番のテーマはもちろんのこと、「あんこ」にまつわる思い出も、甘いもあれば苦いもあり...。
若いころは、いくら食べたくとも、女の客で充満している汁粉屋へ入るのが、(見っともない…)ような気がして、身をちぢめて食べ、食べ終わるや脱兎のごとく逃げ出したものだ。
この世代の男性には「甘味=女・子供の食べるもの」という観念があるんでしょうね。
汁粉屋へ行くたび「いつになったら、お前のバカは癒るんだ」と友だちに言われたのですが、一年ほど前にその友だちと〔竹むら〕の入口でばったり出くわします。
「この竹むらで、何を食ってきた?」
私が切りつけるようにいうと、友だちは、
「う......う、う.....」
ぐっと詰まったが、蚊の鳴くような声で、
「ぞ、雑煮だ。此処の雑煮はうまい」と、いう。
「嘘をつけ」
「嘘なもんか」
「口の端に、ぜんざいがくっついている」
「えっ......」
ぎょっとして、つぎには狼狽して、口の端を手で擦った友だちへ
「お前のバカは、いつからなんだ?」
問い詰めた私へ、友だちは泣き笑いを浮かべ、
「今夜から.....」
実際は口に何もついていなかったのですが、カマをかけて見事にハマったというわけです。甘味好きをバカにしてしまった友だちのバツ悪さが笑えます。正直に自分も好きだと言えば、ぜんざい仲間になれたのに(笑)。
そのほか、外山滋比古の「マンジュウの涙」や増田れい子の「川ぞいの町にて」はホロリときました。そして幸田文の「菓子」のふわっと包む恋心のような菓子はどんなものだろうと想像を掻き立てられます。
グルメレポートもいいですが、こうしたエッセイやエピソードに出てくる「あんこ」にひどく食欲をそそられてしまいました。
ちなみに私は〔銀座鹿乃子〕の「鹿乃子あんみつ」ファンでございます(笑)