鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

駄作

新刊コーナーで見つけた一冊。

ジェシー・ケラーマン著 『駄作』(原題:Potboiler)

駄作 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 たまには海外作品でもと思い、けっこう分厚い文庫ならさぞかし読み応えがあるのだろうと期待しましたが、中盤から失速してしまい、だらだらとなんとか読み終えました。(以下ネタバレ)

 

 売れない作家で非常勤講師の主人公プフェファコーンが、ベストセラー作家で親友のビルの葬儀に招かれます。実はビルは亡くなったとはいえ、行方不明の状態で何週間にもわたる捜索の甲斐も無く棺は空の状態でした。

 成功したビルに比べてプフェファコーンの質素な生活ぶりなどから少し彼が卑屈になっている様子が伺えます。ビルのヒット作「スタップ・シリーズ」についての辛口な批評などは、客観的な視点が感じられておもしろいと思いました。

 主に誘導尋問からなる長い会話により、登場人物の複雑な過去がわかるようになっている。電車や飛行機は時間通り正しい目的地に着くように運行されており、おかげでスタップはあり得ないほど短時間で広範囲を移動できる。苦境にあってほとんど何も食べず、睡眠もとっていないにもかかわらず、美女と情熱的に愛し合う状況になれば、十分なスタミナを発揮できる。捕らえられたときは、脱出するために自力で工夫しなくてはならない。

 葬儀後、ビルの仕事場で未発表の原稿を見つけます。誘惑にかられてその原稿を持ち出してしまいます。プフェファコーンは盗んだ原稿に少し手直しを加えます。彼は多用されている「一連のなめらかな動き」の表現が気に入らず、シンプルな動作描写に書き替えてしまいます。

 自作と偽り出版社に送ると絶賛され、すぐに刊行されて大ヒット。一躍ベストセラー作家になります。そしてビルの妻だったカーロッタとも深い関係になっていきます。

 金持ちになった彼は結婚式を控えていた娘に惜しみなく金銭的援助ができるようになり、無事に結婚式を終えます。そしてカーロッタとの関係も順調になっている矢先に、ビルのエージェントだったセイヴォリーに呼び出され盗作がバレます。そしてビルが書いていたスタップ・シリーズの小説が、とある組織グループによって書かれたもので、文中にスパイに対する暗号化された指令が含まれていることを告げられます。

 ここで「ズラビア」という見知らぬ国が出てくるのです。東西に分かれて内戦が起きているという設定で、そのスパイ活動にビルが関わっていたのです。そしてプフェファコーンが「一連のなめらかな動き」を削除したために東ズラビアの大統領が撃たれたというわけです。盗作したことを脅された彼はビルの後釜になってしまいます。

 ある日、カーロッタを訪ねに行くと、彼女のダンスレッスンのパートナーが殺されていて、容疑者としてプフェファコーンが逮捕されてしまいます。で、そこで取り調べた人たちが実はズラビア関係者で、プフェファーコンを拉致し、そして工作員としてトレーニングを受けさせるという展開になっていきます。

 この本のPRに【奇想天外な展開があることを警告しておきます】とありましたが、これを奇想天外というのかもしれません。私としては、主人公の文筆活動を中心としたストーリー展開を期待していたので、興味が冷めてしまったのが正直なところです。

 どこかの湖の真ん中にある4階建てのログハウスの隠れ家で、プフェファーコンの特訓は11日間行われ、ズラビア人と同じように情報を扱う手段を得るために、ズラビアの文化、言語、戦術が集中的に叩き込まれます。さらに武器、演技と話し方、化粧、変装なども学ぶのです。そのために大勢のスタッフが送り込まれます。

 しかし、彼らが水上飛行機で頻繁に行き来していたら隠れ家の場所などすぐにばれてしまうだろうし、そしてたった11日間でズラビア人になりきれるのか。冴えない非常勤講師でにわかにベストセラー作家になった彼が、ジェームス・ボンド並みの知力・体力を身につけられるのか...。フィクションとはいえつい突っ込みたくなります。

 ラスト・シーンも意味不明というか、最後まで私にはこの作品の魅力が見出せませんでした。

 そしてもう一つ、キャラクターたちの名前です。他の登場人物はファースト・ネームなのに、主人公だけラスト・ネームの「プフェファーコン(Pfefferkorn)」。この響きがなかなか馴染めなかったです。これは私が日本人だからかもしれません。調べたらドイツ系の名前のようですが、どう発音するんでしょう。ファースト・ネームの「アーサー」の方が馴染みやすいと思うんですが...。また、カーロッタの殺されてしまったダンス・パートナーの名前がジーザス・マリア・ド・ランチボックスというのもちょっと凝りすぎというか、それとも受け狙いなのか、平凡な名前でもいいような...。

 原題のPotboilerを調べると営利目的の粗悪な作品、金目当ての通俗小説、またその作家を意味しています。

 著者が自虐的にこのタイトルをつけたんでしょうか....とあらぬことを思ってしまった作品でした。

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