鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

通い猫アルフィーの奇跡

 関東地方はやっと梅雨明け。

 連日、気が滅入る天気に気が滅入るニュース。下降気味な気分をリフトアップすべく、なんかおもしろそうな本はないかと、何かの雑誌にはさまっていたハーパーブックスのDMを眺めていました。

 ハーパーブックスといえば、ご存知、美男美女のラブラブ全開表紙のハーレクインロマンス。そんな作品がずらり並ぶ中、灰色のおデブな猫の表紙が異彩を放っていました。

 

『通い猫アルフィーの奇跡』レイチェル・ウェルズ著

通い猫アルフィーの奇跡 (ハーパーBOOKS)

以下、ネタバレ。

 老婦人マーガレットに飼われていたアルフィー。先輩猫のアグネスとともに幸せに暮らしていましたが、アグネスを亡くし、そしてついに飼い主のマーガレットにも旅立たれてしまいます。マーガレットの娘リンダはアルフィーをシェルターに保護してもらう選択をしたため、恐れたアルフィーは家を飛び出します。

 家猫のアルフィーにとって野良生活は過酷でしたが、ボタンという猫から「通い猫」のことを教えてもらいます。さまよい続けた末、エドガー・ロードという住宅地にたどり着き、「通い猫」として生きることを決意。マーガレットを亡くした後、引き取り手がなかったアルフィーにとって孤独のトラウマは深く、複数の家に通うことは二度とひとりぼっちにならないための最善策だったわけです。

 愛情たっぷりに育てられたアルフィーは新たに通う家の人たちと仲良くなりたいと思っています。アルフィーの願いは愛情と安心感。だれかの膝や温かい毛布、猫缶やミルクをもらったり愛情を注がれたりしたい。でも、訪ねた家の住人たちはそれぞれ悩みを抱えています。

 離婚して引っ越したばかりのクレア。ようやく立ち直って出会った男ジョーは、とんでもないDV男。

 大きな家に一人で住む失業中の男ジョナサンはいつも不機嫌。ようやく仕事を見つかり、以前から知り合いだった女性フィリッパと親しくなってデートを重ねてきたけどどこかしっくりいかない。

 夫トーマスの仕事の都合でポーランドから移住してきたフランチェスカとその息子たちアレクセイとトーマス。気丈に明るくふるまうフランチェスカですが、ときどきホームシックになったり、街で移民への差別的な発言を耳にして落ち込んだり...。

 育児疲れで崩壊寸前のポリー。夫のマットは多忙で、ポリーを気にしつつ慰めてはいますが十分ではありません。

 そんな4つの家を通いながら、アルフィーはその人たちと少しずつ心を通わせていきます。

 

 物語は猫のアルフィーの視点で進んでいきます。物事の解釈も猫なりなので、アルフィーの好意を示す行動として鼠や鳥の死骸を置いたり、子供たちに乱暴に扱われてもひたすら耐えたりなど、猫を飼われている方ならアルアルな行動描写と思われる場面がいくつもあります。また、猫嫌いの人に対する本能的な感覚表現は、まんざらフィクションではなさそうな印象があります。愛猫家である筆者ならではと言えます。

 例えば猫側の気持ちとしては...。

 ジョナサンの家には、いただけない点が多々あって、カーペットがないこともそのひとつだ。どこもフローリングで、お尻で床をすべるのはおもしろいから猫にとっては楽しめるものではあるけれど、冷たいし、なにより大好きな爪どきができない。それにじゃれつけるカーテンのかわりに、おもしろくもなんともない硬いブラインドがついている。

 人にとってはとんでもないと思えそうですけどね。

 アルフィーを通して彼らの問題が少しずつ浮き彫りになり、アルフィーのちょっとした行動によって解決の糸口が見つかるという展開になっています。最後はハッピーエンドでめでたしめでたし。こんなにうまくいくかしらんと思ってしまいますが、ハートフルな作品ですから、そこはネコ萌えで余韻を味わいたいところです(笑)

 アルフィーは人との距離の取り方が上手だと思いました。相手の気持ちを思いやる術に長けているとでもいいましょうか。泣いている人のそばにいたほうがいいとき、逆にそっとしてあげたほうがいいときなど、相手の様子をよく観察して何をしたらいいかを考えています。実際、猫がそこまで考えているかは猫でなければわかりませんが、そういう距離の取り方は関係を築く上では大切なことだと思います。

 

 余談ですが、この作品を読んでいるとき、北米滞在中に知り合った茶トラの猫を思い出しました。

 私が住んでいたアパートの隣の部屋に初老の男性が飼っていたオス猫のクーガーがいました。人懐こい性格で引っ越して間もない頃から毎朝私が出かけるときにドアの前にちょこんと座っているんです。当時はそんなに猫好きではなかったんですが、毎朝いつもいるものだから、私もいつのまにか「good morning」なんて声をかけるようになり、やがて頭をちょこちょこっと撫でるようになりました。

 それからはナイキの黒スニーカー(他の黒スニーカーはなぜかダメ)を履いてるときは靴ひもに擦り寄ってじゃれるし、赤いスリッポンのときはやたら威嚇してネコパンチしてきたり...。そして帰宅時も鍵を開けてる音を聞きつけてくるようになりました。

 しばらくして、お隣さんが「クーガーが君を困らせていないかい?」と声をかけてくれて、世間話をするようになり、慣れない生活の不安が少し和らいだ経験があります。クーガーはよく躾けられていて、愛情たっぷりに育てられた猫はかならず人にも愛情を返してくれるものなのだなと思いました。私が猫好きになったのはクーガーのおかげです。あいにく現在の住居はペット不可なので、こういった作品やネコ関連の動画やブログで楽しんでいます。

 この作品の続編『通い猫アルフィーの初恋』が来月発売予定なので、いまから楽しみです。