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鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

「ハドソン川」の奇跡

 2009年1月、ニューヨーク・ラガーディア空港を離陸したUSエア1549便が、バードストライクによってハドソン川緊急着陸したニュースは今も記憶に新しいところです。サレンバーガー機長の冷静で的確な判断によって乗客全員を脱出させたのはまさに奇跡でした。

  その機長自らの半生と事故当日の様子を綴った作品。C. サレンバーガー著、『「ハドソン川」の奇跡』。最近ではトム・ハンクスの主演で映画化もされました。

機長、究極の決断 (静山社文庫)

  事故後のサレンバーガー機長は英雄としてあちこちで引っ張りだこ。一方で彼自身、事故後のストレスで眠れない日々が続いたりして心身ともにかなりしんどい時期を過ごしました。でも彼の前向きな物事の捉え方、例えば川の中で無くした航空地図が見つかって嬉しいとか、ささやかなことに感謝する姿に彼の人柄が伝わりました。

 私の国際便の利用経験は多くはありませんが、個人的にはアメリカの航空会社のフライトが快適に思いました。また、空港のラウンジで見かけるアメリカの民間航空のパイロットが他より年齢が高い人が多い印象を持ちました。アメリカ人の友人曰く、空軍士官の退役軍人が民間航空のパイロットになるケースが多く、雇用する側からすればすでに豊富なフライト経験と技術、そして危機管理と安全意識が高く、パイロットとして良い人材が多いということでした。確かに、このサレンバーガー機長も空軍士官でした。瞬時の判断を冷静に的確にこなせるのは、厳しい士官学校のトレーニングと豊富な経験からと言えるでしょう。

 さて、アメリカ大統領選挙後、その結果にいまだモヤモヤ・イライラ感が全米のあちこちでトラブルとなっている様子がニュースになっていますが、飛行機の中も然り。

 ABCニュースで、ユナイテッド航空で乗客同士の政治的な内容の激しい口論が起き、それを諌める機長のアナウンスが取り上げられていました。

  We're gonna be in a metal tube, at 35000 feet, to bring up politics, Okay? I understand everybody has their opinions, that's fine.

  If you support him, great.  If you don't, I understand. However, we're out here to go to Puerto Vallarta supposed to be having a good time and what I do ask is that.

 As people, we have the common decency to repsect each other's decisions and to get along on this three-hour and thirteen-minute flight so that we can have a good time and get down there.

  Nobody wants to argue, nobody's going to change their minds by arguing and let's keep our opinions to ourselves this particular matter at this particular time.  

  When cooler heads prevail, and we can talk, and realize that we're all human beings and that we all can stick together, and we can all pull for this country in our own way, then that's what we should do.  If anybody has a problem with this that needs to vent, or rant, or rave.  There's another flight tomorrow.  You're not gonna be on this time. I hope that's clear. 

 もしイケメンで渋い声の機長がこんな感じでアナウンスしたら...と脳内ハーレクイン・モードで妄想しながら、私の怪しい英語力で訳すとこんな感じです(笑)

 「私たちは高度35000フィートの金属製のチューブの中で政治の話題を持ち出している。いいですか?みんなそれぞれ意見を持っているのはわかるし、それは結構なことだ。もし、あなたが彼の意見を支持するならそれでいいし、そうでないとしても、それはそれで理解できる。

 しかし、今、私たちはここを出発して、プエルト・バジャルタで楽しい時間を過ごすことになってるし、それは私が望んでいることでもあるんだ。人として互いの意見を尊重するという共通の良識を持ち、楽しい時間を過ごしながら現地に降り立つために、3時間13分のフライトを一緒に過ごしているんだ。

 誰も言い争いなどしたくないし、口論によって人の気持ちを変えようとは思わない。この特別な時間にこうした特定の話題についての自分の意見は、それぞれ胸の内にしまっておこうじゃないか。冷静になれば、話しあうことができるんだし、私たちが同じ人間で一緒に過ごせることだってわかるんだ。そして私たち全員がこの国を私たちなりに支えていくことが、私たちのやるべきことではないだろうか。

 もし、誰か、当たり散らして騒ぐ必要があるような問題を抱えているなら、明日、別のフライトがあるから、今回はやめたほうがいい。わかってくれるといいんですが。」

 

  説得力ありますね。明らかなことは、機内における権限が機長にあるということです。「安全」を第一に考えると、ささやかな口論もやがて取っ組み合いの喧嘩になるかもしれない、そうなる前に防ぐということでしょう。「客に向かってなんだその言い草は!」とキレるような人など速攻つまみ出されそうです。

 少し前に、大韓航空のナッツリターン事件がありましたが、いくら乗客の一人に大韓航空副社長とはいえ、機長がその乗客のいいなりとなってフライトを中断し、結果として航空法を無視した機長の安全意識の低さが露呈した形となりました。

 公共交通機関は利便性と快適な環境がますます向上してきて、ホテルやリゾート地と同じ感覚になりがちですが、見知らぬ人たちと限られた空間で移動中の時間を過ごす場所。どんなに快適でも動く「輸送機器」の中にいる限り、「安全」が最優先なんですよね。そう考えればこの機長が言っていることはあたりまえのことだと思います。そんなことも希薄なりつつある現状は、日本においても起こり得るわけで、決して他国の話とは言えないと思いました。