鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

道は開ける

 私にとって「困った時の」一冊。

 『道は開ける』デール・カーネギー

道は開ける 文庫版

 気分の波によって些細なことで悩み始め、ずんずんと深みにはまるときがあって、なにも解決を得られずに時間を無駄に過ごしてきました。相談できるような親しい人もいないし、最終的にデールさんに解決してもらうことが多かったです。二十代のときに出会った『名言集』も随分お世話になりましたっけ。

 定番の名著『道は開ける』は、「悩み」についての分析、解消、解決などが書かれています。特に奇抜なハウツーものでもなく、当たり前と思われるようなことを喚起させてくれます。

 冒頭、「悩みに関する基本事項」で、「今日、1日の区切りで生きよ」があります。

 トーマス・カーライルの引用文で、

「我々にとって大切なことは、遠くにぼんやりと存在するものに目をやることではなく、手近にはっきりと存在することを実行することだ」

 実は、つい最近行われた町内の大掃除、主婦の方たちの群れが苦手、若いママさんたちにも気を使いそう、やたらと干渉してくるあの年配の方もいるし、体格の良さからあれこれとこき使われそう(笑)など、憂鬱このうえない状況に陥りました。でも、考えてみればやるべきことは掃除であって社交はその副産物。ならば掃除にプライオリティをおこうと決め、当日、ひたすら自分の担当範囲の掃除に集中しまくっていたら、前日まで悩んでいた社交は杞憂に終わりました。

 ジョン・ホプキンズ医科大学創設者のサー・ウィリアム・オスラーが、医学生時代に卒業試験のことで悩み、診療科目はどうしようか、どうやって開業しようか、生活はどうしようかなどど悩んでいたときのエピソード。

 豪華客船に例えた話が気に入っています。

 豪華客船を人、長い航海を人生に例えていて、この航海を安全確実なものとするには「1日の区切りで」生きることによって自分自身をコントロールすることを学ぶということです。海が穏やかなときばかりではありませんから、嵐のときは、客船にある大きな「防水壁」を作動させてみる。前と後ろの防水壁を閉め水の流れ込みを防ぐ。鉄の扉が過去、息絶えた昨日を閉め出す。もう一つのボタンを押して未来、まだ生まれていない明日を閉め出すのです。

 これは何も希望を捨てろとか、明日の準備をしなくていいと言っているのではなく、過去と縁を切り、息絶えた過去は死者に委ね、未来のことを気遣うことで、心痛やエネルギーの消耗を防ぐ。嵐を乗り越えるには、「もっと天気を検討すればよかった」という後悔も、「明日も嵐だったらどうしよう」の心配もそこでは役に立たず、とにかく水の侵入を防いで今を乗り切るしかない。明日の重荷に昨日の重荷を加えて今日背負ったらどんなに強くてもつまづいてしまう。1日の区切りを終えることで、明日へつながるんですね。

 「日本人は振り返るのが好きだよね」

 以前、勤め先のアメリカ人弁護士から言われて、ずっと引っかかっている言葉です。批判や揶揄の意味はなく、「****復興記念」とか「***周年慰霊祭」など報道で見るたびにそう思ったそうです。確かに天災や大規模な事故から得た教訓を忘れないために振り返ることは意味がありますが、そこでとどまっていたのでは進めない。そんな彼らと職場で働いて実感したのはまさに「what shoud we do now?」でした。ナイキの「just do it」もまさにそうですね。「ぐずぐず悩んでないで、さっさとやろう!」(笑)

 『鏡の国のアリス』の白の女王様の言葉も然り。

 「明日になったらジャムがあるとか、昨日だったらジャムがあったのにといっても、それは今日のジャムでは絶対ないのだ」

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  今年もあと数週間。今年1年を振り返るのもいいですが、今、やるべきことを終えないといけませんね。