鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

ジェイン・エア 2(赤い部屋)

 『ジェイン・エア』(シャーロット・ヴロンテ作/河島 弘美 訳)

 ジェイン・エア(上) (岩波文庫)

  ジョンと取っ組み合いしたジェインが連れていかれた「赤い部屋」。

 「赤い部屋」は立派な内装で、ベッドには真紅のダマスク織りのカーテンが下がり、部屋の真ん中を占めています。大きな二つの窓には、同じく真紅のカーテンがあり、その襞と花綱とで窓を半分覆い隠していて、重厚で荘厳な雰囲気です。

 絨毯も真紅、壁はかすかにピンクの混じった薄い黄褐色。家具は黒く磨き上げたマホガニー。まくらとマットレスは純白。

 わたしには青白い玉座のように見えた

 BBCで放送されたドラマのセッティングがイメージしやすいかもしれません。

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     (こちらはちょっと紅すぎて怖い...)
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  「赤い部屋」はゲイツヘッド邸では予備の寝室ですが、最も広く、立派な寝室でありほとんど使われていません。

 リード氏が亡くなった9年前。この部屋で息を引き取り、この部屋に安置され、棺は葬儀屋の手によってここから運び出された日以来、暗い聖別の印象のために、誰もが近寄らない部屋となったのです。

 部屋へ向かう途中もジェーンはまだ抵抗し続けています。ここまで抵抗するのは初めてですが、その行動はかえって世話役のベッシーと夫人付きのアボットに悪い印象を与える結果になり、部屋に入るとさらに自暴自爆にあばれてしまい、強引に椅子に座らされ、二人から説教されます。

  • 生活のために、何一つしていないから召使より下である
  • リード夫人に養われているのだから、ここを追い出されたら救貧院に行くしかない
  • リード家の子どもたちと同じ扱いを受けようとは思わないこと 

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 物心ついたころから「厄介者」といわれ、使用人たちにもこんな扱いです。邸にはジェインの心を理解し、慰めてくれる人は誰もいないのです。

 部屋に閉じ込められたジェインはまだ興奮ぎみで、3人の子どもたちの振る舞い、リード夫人が自分にむける憎悪、召使たちのえこひいきなどが心に浮かび、自問自答します。

なぜわたしは、いつも辛い目にあうのだろう。なぜいつも怒鳴られ、責められ、咎められるのだろう。気に入られようと努力しているのに、全然うまくいかず、ちっとも可愛がられないのはどうしてだろう。

  頭の傷からはまだ血が出たまま。召使たちはジェインの傷すらケアしてくれないわけです。まさに満身創痍ではありませんか(涙)。

 わけもなくわたしを殴るジョンは誰にも叱られず、理不尽な暴力をそれ以上受けまいとして抵抗しただけのわたしは、みんなから非難を浴びるのだ。

 「不公平よ!ひどいわ!」辛い刺激によって一時的ながら早熟な力を得た、わたしの理性がそういった。

  4つも年上でおデブなジョンが毎回力いっぱい殴るのですから、10歳で小柄なジェインが生命の危機を感じて抵抗したのは当然です。

頭は乱れ、胸は荒れ狂っていた。しかもその精神的な葛藤は、なんという闇、なんという無知の中で行われていたことか。なぜ自分はこんなに辛い目にあるのかという、絶え間ない心中の問いかけにわたしは答えることができなかった。

  どうしたらいいのかわからない。まだ保護が必要とするジェインにこの問いかけは残酷です。

 日が傾き、雨が降り出し(天気までも憂鬱)、体が冷えてきて、ネガティブな感情がさらにジェインを襲います。絶食して死のうかと思ったりもするのです。そして亡くなったリード氏のことを考え始めます。

 ジェインはリード氏の記憶はありません。生まれてまもない彼女を引きとってくれた実の伯父についてこんな考えをもちます。

 もしリード氏が生きていたら、きっとわたしを可愛がってくれただろうと、わたしは固く信じて疑わなかった。

 邸内の全員から嫌われているジェインにとって、そんな想像がせめてもの救いなのかもしれません。

 そしてジェインは死者について聞いた話を思い出しているとき、窓の隙間から光がちらつき、その光はあの世からきたのだと思うと怖くなって、耐えきれずにドアの錠を揺さぶります。その音を聞いてベッシーとアボットが入ってきます。

 幽霊が出てきたと訴えるジェインはベッシーの手をしっかり握ります。このときベッシーはその手を振りほどこうとはしなかったのは、ジェインが本当に怯えているとおもったのでしょう。ベッシーは少なからずの思いやりはあるようですが、夫人付きのアボットはわざと騒いだと決めつけます。

 そこにリード夫人がきて、放っておけと言います。そしてジェインにそんな小細工は通用しない、あと一時間ここにいろと命令します。  

「ああ、伯母さん、お願いです、許してください!とてもだめなんです。他の罰に替えてください。殺されてしまいます、もしも.... 」

 「お黙り!こんな大騒ぎ、むかむかしますよ」夫人は本心からそう感じていたにちがいない。夫人の目にわたしは、小ざかしい芝居をする子に見えたのである。たちの悪い癇癪もちで、さもしい根性の子、影ひなたがあって油断のならない子、と夫人は信じていた。

 (この子役の演技は秀逸)
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   ベッシーとアボットがさがり、夫人は『身悶えして激しく泣きじゃくる』ジェインを部屋に押し戻し、問答無用で錠を下ろします。
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 (錠を下ろされ、絶望的なジェイン)
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 このときのジェインの様子を原語で追うと、

Bessie and Abbot having retreated, Mrs. Reed, impatient of my now frantic anguish and wild sobs, abruptly thrust me back and locked me in, without farther parley.

  • 「frantic: Distraught with fear, anxiety, or other emotion」恐れや心配などで錯乱状態、半狂乱、死にものぐるい、気が狂わんばかりの
  • 「anguish: Severe mental or physical pain or suffering」耐え難い心身の苦痛
  • 「wild sobs: Cry noisily, making loud, convulsive gasps」泣きわめく、さわぐ、恐怖にあえぐ

 調べるだけで胸が詰まります。そんなジェインを部屋に押し戻し錠を下ろすリード夫人。鬼畜です。

 夫人の遠ざかる気配を聞いてまもなく、わたしは気絶したようだ。

 気絶ですよ、気絶。ジェインは壊れる寸前まで追い詰められてしまうのです。

 第2章も心がひりつくほど痛かったです(泣)

 

 映像の中のリード夫人、様々な方が演じておりますが、どれも意地悪そう。
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 個人的には感情を顔に出す夫人より、1996年映画版のリード夫人のこの冷ややかさに怖さがあってイメージしやすいです。
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  ジェインが気絶して第2章が終わります。切ない。あまりに切ないです。 

 

 余談ですが、「ネガティブな感情を表す英単語を書きなさい」という問いがあったら、ぜひこの第2章をお役立てください。