鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

「毒親」の正体 ――精神科医の診察室から

 『ジェイン・エア』が続きましたので、ちょっと一休み。

 新潮新書のツイートで知った一冊。

 『「毒親」の正体 ――精神科医の診察室から 』 水島広子 著

 「毒親」の正体 ――精神科医の診察室から  

 精神科医の精神医学的事情という視点から書かれた「毒親」についてです。

 「はじめに」で、お願いが書かれています。

 最初から順に読んでいただきたい、ということです。それほど、「プロセス」が重要なのです。まず知り、理屈として整理し、その後に自分の心の癒しのステップを踏む、という順番がとても大切なのです。

 1ヶ月程前にこの本を購入し、少しずつ読み進めてきました。『ジェイン・エア』を読みながらでしたので、リード夫人の毒親ぶりが重なったりもして、二冊の間になにか見えない糸がつながっているような気がして..(笑)。

 本書で「毒親本」の功罪について触れていたのが興味深かったです。スーザン・フォワードの『毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)』によって「毒親」という言葉が使われるようになったわけですが、自分の親が毒親であることを認識することは「初めの一歩」になりますが、「自分は、最も重要な時期に不適切な育て方をされた」ということほど、人に絶望を与えるものはないと述べています。

 「親のせいで自分はこうなった」という認識がそこで止まると、「そんな自分はなにもできない」という無力感につながることもある。そして「こんなひどい育てられた方をした自分は幸せになることなどできない」という固定観念に囚われて、無意識に幸せになる機会を逃してしまうというわけです。

 小説とはいえ、毒保護者のリード夫人に育てられたジェインの生い立ちを見てもそれは理解できます。「どんなに努力しても私は幸せになれない、みんな私を嫌っている」とずっと嘆いていたジェインの感情はそれに近いと思います。

 私が読んだのはスーザン・フォーワードの『毒親の棄て方』ですが、「つらい感情を認識する」の手法として、母親に向けて自分の感情を吐き出す手紙を書くというのを実際にやってみましたが、負の感情が湧き出て疲れて放心状態になり、しばらくするとまたその負のマグマが動きだして感情のコントロールが難しくなりました。その後のケアが適切でないと、ネガティブな感情だけがくすぶったままな気がします。著者が指摘しているのは、おそらくそういう部分ではないかと思います。

  毒親から離れても見えない心の支配は続いているとも述べています。ジェインもローウッドに移っても、リード夫人の心の支配にもがいていましたし、ドラマ「君が心に住みついた」の主人公は、親元から独立して生活しているのに、ふとしたときに母親から言われた辛辣な言葉がフラッシュバックして、パニックになるシーンがありました。

 本書では毒親の精神や心の状況について言及しています。これは毒親を客観視していくことだと思います。そしてその毒親に育てられた子どもたちの5ステップでは、一つずつ子どもたちに「自分のための癒し」を解説しています。私は何度も読み返しましたが、ここは精読することをお勧めします。

 さらに興味深かったのは、アティテューディナル・ヒーリング(AH)についてです。米国の精神科医、ジェラルド・G・ジャンポルスキーが創始した活動で、自分の心の平和だけを目的にした心の姿勢への取り組み。

 「自分の心の平和」のために自分をこれ以上傷つけないということ。過去を思い出すたびに自分を傷つけるのをやめるというもの。思い出す度に自分が傷つかなくてすむようになることを、AHでは「ゆるし」というそうです。ここでのゆるしは自分自身に向けてです。

 ここで、私の脳内にいるヘレンが甦りました(笑)ジェインがリード夫人から受けた仕打ちを何から何まで詳細に覚えていることを話したときに、ヘレンはこう言いました。

 夫人の厳しい仕打ちも、それによってあなたの心に生まれた激しい感情もみんな忘れようと努めたら、もっと幸せになれるんじゃないかしら。

”Would you not be happier if you tried to forget her severity, together with the passionate emotions it excited?”

  ヘレンはジェインにAHでの「ゆるし」を行ったのかもしれません。リード夫人の行いや言動は保護者として明らかに不適切だったのだから、思い出しては怒ったり嘆いたりして自分を傷つけるのはおやめなさいと言ってるわけです。おそるべし、ヘレン(笑)。

 ヘレン・バーンズのような友だちに出会えなかった私には、この本が「ゆるし」を与えてくれたようです。わかりやすい文章とプロセスで、少しずつ心を解きほぐしていく一冊だと思います。