鈴の本箱

本のこと(ネタバレあり)、日々の雑感(覚書)

億万長者の献身

 久しぶりにハーレクインを読む。しかも「ディザイア」(笑)

 『億万長者の献身』キャサリン・ガーベラ著(北岡みなみ訳)

億万長者の献身 (ハーレクイン・ディザイア)

 いただきものの一冊(モニター)。

 原作は『Bound By A Child』。直訳すると「子供に束縛される」、「子供による制約」とか、子供がキーワードに思えるタイトルだが、それほど子供がストーリーに深く関わっているわけではない。

 実は冒頭の数ページで嫌気がさしてしまい、やっと読み終えたのである。

 (以下ネタバレ)

 ジェシー・チャンドラーはゲーム会社「インフィニティ・ゲームズ」のマーケティングディレクター。この会社はジェシーの家族が経営していたが、「プレイトーン・ゲームズ」に敵対的買収をされている。この会社を経営しているのがアラン・マッキニーと従弟たちである。

 ヒーロー、アランの容姿は、第一章冒頭に述べられている。

アラン・マッキニー――筋肉質の体つきで、こざっぱりしたヘアスタイル、ダークブラウンの髪と女性を虜にする鋭い銀色の目を持つ男性。彼はハリウッドでも指折りの魅力的な男性と言えるだろう。

 「銀色の目」で女性を虜にできるなら、シルバーのカラコンを使うのもアリかもしれない(笑)

 敵対的買収をされ、雇われる立場になったジェシーにとってアランはムカつく相手。ジェシーの姉エマも同様だが、妹のキャリはアランの従弟テック・モントローズと婚約し、職も確保している。

 立場的にはアランの方が圧倒的有利で、ジェシーはイライラしながら仕事をしている。そんな矢先、無二の親友パティ・マッコイとその夫が交通事故で亡くなる。パティの夫ジョンはアランの親友であり、この二人が結婚したことがきっかけで、アランとジェシーが知り合ったのである。

 死亡の知らせを受けたのはアラン。ちょうどそのときジェシーと仕事のことで言い争っていた。そしてアランから亡くなったことを聞いたジェシーはショックで、アランはそんな彼女をなだめる。

 マッコイ夫妻の子供ハンナは事故にあわなかったが、すぐに連絡を取れるような親戚がいない。夫妻の弁護士は、遺言書にはアランとジェシーにハンナの保護者になることを望んでいることが書かれていると伝える。

 そしてアランのプライベート・ジェットでノースカロライナへと飛ぶ。このフライトの時間、機内の様子が詳細に描かれる。二人の感情や会話はこのパターンで構成されている。

 「悲しい」:親友夫婦を亡くして悲しみにくれる。
  ↓

 「この悲しみを共有できる相手が目の前にいる」:アランとジェシーは敵対し合っているが、憎まれ口をたたいている方が、フライトの間、ずっと黙っているよりよい。
  ↓
 「愛について語れる相手でもある」:仲の良いマッコイ夫妻についてジェシーは「結婚は愛」に肯定的だが、愛を信じないアランは否定的、人生の伴侶はセックスで見つけると断言。話の流れから過去の恋愛事情も語る二人。実は二人はマッコイ夫妻の結婚式でキスをしたことがある。それをジェシーはひきづっている。
  ↓

 「敵対、好奇心、挑発、誘惑」:アランはジェシーの気が強い一面しか知らなかったため、今回、彼女の繊細な一面を知ったアランはジェシーに興味をそそられる。

 仕事の話を盛り込んではいるものの、互いに挑発や誘惑を繰り返すのである。

「きみは負けたくないだろうな」アランは言った。「ぼくたちが新しい関係を試してみたとき、ぼくが意図するよりずっときみはぼくに惹かれるという挑戦だよ」それは彼にとっても危険な挑戦だった。

 「きみはぼくのことが好きになる」というヒーローのメンタルは、他の作品でもよく見られ、『アルフィーと海辺の家』のネコのジョージですらそうだったように、ハーレクインでは定番といえる。  

 この賭けにアランが勝てば、ジェシーが持っている株を譲ってもらい、ジェシーが勝てば新会社で職を維持できる。

 で、その賭けとは、ジェシーの台詞に示されている。

 「わたしが勝つためには、キスをしたときにあなたのほうがわたしより影響を受けているとわからなければならないのよね?」

 そしてジェシーは立ち上がり、アランの膝にまたがってゆっくりと唇を近づけて...と濃厚なキスシーンが2ページ近く描かれている。

 親友夫妻の死亡事故に悲しんでいた二人が、数時間後にこれである。悲しみを紛らわすためとは思えない。ビジネスライクでもなんでもない。プライベート・ジェットで熱い時間を過ごすまさに「ディザイア」なのである。しかし、個人的にはこういう展開は、ヒーローやヒロインのメンタルを疑ってしまう。

 ノースカロライナに着いた二人は、マッコイ夫妻が所有しているB&Bに宿泊する。アランの執事フォークスは飛行機の副操縦士も務め、さらに訃報から数時間でこのB&Bについても手配済みというスーパー執事である。

 さらに、マッコイ夫妻の遺言書も驚く内容で、娘ハンナの養育に関し、ジェシーとアランに共同親権を与えたのだ。結婚していない男女に共同親権が与えられるのは極めてまれだが、違法ではないと弁護士は伝える。そしてあっさりと二人は共同親権を承諾するが、なぜかそこのあたりは妙にビジネスライクに割り切っている。

 そしてハンナを引き取った後、法的手続きが終えるまで3人はB&Bに滞在。二人の気持ちが近づきすぎることにアランは警戒する。

「ぼくたちは好むと好まざるとにかかわらず惹かれあっている。そしてこれからの人生でハンナのことで協力しあう必要がある。だからぼくたちはこの関係をコンロールして――」

 「コントロールできるわ」

  この台詞のあと、二人はキスをする。

前回のキスが探検だったとしたら、今回は支配だと、ジェシーは確信した。アランは彼女を求めていた。それを認めるかどうか、答えはわかっていた。ジェシーは彼のベッドで情熱をかわすつもりだった。

  もはや心身ともにアンコントローラブルである。

 心配なのは引き取られたハンナ。経済的には問題ないが、情緒面が心配である。愛を信じない男と挑発にのってゴロにゃんする女に引き取られてハンナは幸せになれるのだろうか。

 すでに二人の気配を察するように、ハンナは夜泣きなどしない。二人のディザイア・ベッド・タイムのときに泣くことはなく、事を終えた翌朝に泣くのである。それとも二人が夢中で気づかないだけのか。それともこっそりスーパー執事のフォークスが世話をしているのだろうか。このあたりから読むのがおおざっぱになった。そんな矛盾など関係なく二人のディザイアは燃えるばかりである。もうお腹いっぱいで逆流性胃腸炎を起こしそうだ。

 B&Bで濃密な時間を過ごし、ハンナの親権についての法的手続きが終わり、カリフォルニアのロスへと頭が切り替わったアランはB&Bでの時間は非日常で、自分たちの人生はロスにあり、素晴らしい時間を過ごしたが現実には意味がないものであると言ってしまい、ジェシーは傷心のまま、ハンナを連れてロスへ帰る。

 その後、アランは仕事をしつつ、従弟たちにジェシーに惚れていることを伝え、ジェシーも姉や妹にハンナを預けて仕事をし、アランのふるまいに怒っていた姉妹。ところがアランとジェシーが互いに惹かれ合っているとわかったとたんに、周囲は協力的になる。あれだけ敵対していたビジネス上の問題も解決方向へと流れていき、グダグダこねていたアランがジェシーにプロポーズでめでたしめでたしである。

 アランとジェシーのハッピーエンドは、ハンナの将来によい影響を与えるだろうか。そんな疑問がぬぐえないハーレクイン作品だった。