鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

行動分析学入門

 Gyaoでシーズン途中から見始めた『クリミナル・マインド』。一話完結とはいえ、過去のエピソードが絡むとやはり最初からちゃんと見たくなり、アマゾン・プライムでシーズン1からどっぷりはまっている。

 このドラマのテーマは行動分析。FBIの行動分析課(BAU:Behaviroal Analysis Unit)のメンバーがプロファイリングして犯人像を浮き出していく。ときたま、そんなにうまくいくのだろうかと思うときもあるが、ドクター・リードの解釈は脳科学にまで及ぶこともあり、また他メンバーたちの早口でまくしたてる分析を聞いてると興味をひかれてしまう。

 ドラマに影響された単純な脳細胞を持つ私が選んだ一冊。

行動分析学入門 ―ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)

行動分析学入門 ―ヒトの行動の思いがけない理由 (集英社新書)

  「入門」というだけあって、わかりやすい例をあげながら説明されているので読みやすいと思う。

 行動分析学は行動の問題を解決する。心理学とは少し離れた位置付けとなる。行動の原因をどのように考えるかというもの。

 例えば、4人家族の息子はこたつで食事をとるときに、左手をこたつにいれたまま片手で食事をする。家族4人の中で息子だけ片手で食べるのなぜか。この行動の原因を「行儀が悪い」と考えがちである。その部屋の状況を調べてみると、息子の座席はドアのそばで開閉のたびに冷たい空気が入ってくる。そのドアは息子の左側に位置しているので、そのために左手が冷えるのではないかと仮定するのである。そこでストーブを彼の左側に移動すると両手で食べるようになった。それでは寒さが原因なのか。もしかしたら、マナーにうるさい彼女ができて、彼が気を付けるようになったのかもしれない、などの様々な仮定と検証を経て、原因をさぐるのである。

 

 余談だが、私が小学校のときに一つだけ解せないことがあった。それは遠足や旅行で駅のホームで列をなした状態でしゃがむことである。現在とは違い、昭和の駅のホームはたばこの吸い殻やおっさんの痰や吐しゃ物がそのままのカオス状態だった。二列に並んだ小学生が電車がくるまでそこでしゃがんで待つのが嫌で嫌でたまらなかった。たいてい列の最後尾になるので、しょっているリュックが通行人のカバンや足にあたったり、頭に当たることもあった。親と出かけるときは、ホームのベンチには座るが、ホームにしゃがんだことはないし、むしろちゃんと立ちなさいと怒られるほどだった。

 ある遠足の日、最後尾の男の子がすぐ近くのベンチにちょこんと座っていたら、激しい叱責にあった。私はいつも立っていたので二人まとめてお説教である。そのとき私は先生に質問した(めんどくさい生徒である(笑))。
 私:「どうしてしゃがまなくてはいけないのですか?」
 先生:「ごらんなさい。クラスみんなしゃがんでいるのに、あなただけ勝手なことは許されません」
 私:「どうして駅のホームでしゃがまないといけないんですか?おとうさんとおかあさんはしゃがめと言ったことはありません。駅のホームでは危ないからちゃんと立ちなさいって言います。」
 そこに男の子も参戦した。
 男の子:「そうだよ、だってきたないよ。すぐそこにゲロあるじゃん」
 先生:「だからといってベンチに座っていいことにはなりません」
 私:「それなら全員立てばいいのに、どうしてしゃがむの?」
 先生:「いいから先生の言うことを聞きなさい!」とぶち切れた。

 今考えれば、先生の都合だったのではないかと思う。小柄な先生が生徒全員の数を確認するため、俯瞰するにはしゃがんでくれた方が楽だからであろう。

 その学期の私の通信簿、教師のコメント欄に「団体行動を乱すことがある」と書かれた。生徒がなぜそういう行動をとるのかを理解する気などさらさらないのだ。

 私も男の子もホームでしゃがみたくない理由は明らかだった。
 ・ ホームが汚いから。
 ・ 駅のホームでしゃがむ理由がわからないから。

 「しゃがむ」ことに言及しているにも関わらず、先生の応えは「団体行動」である。そして生徒に問題ありの結論づけられてはたまったものではない。

 その数十年後、社会人になった私はネズミの国で働いていた。オープンまもないころなので、まだ多くの学校団体客は笛の合図で整列し、生徒たちをしゃがませていた。パーク敷地内では、団体でしゃがむのは遠慮してもらっていたが、こちらの申し出に難色を示す教師が多かった。

 「なぜ」だめなのか。

 多くのゲストはずっと下を向いて歩いてはいない。建物の外観、キャラクターたち、ショーウィンドウなど視線がそこにいく。下を向くとしたら幼い子供に目を向けるか、手荷物を確認するときぐらいだろう。それに、入園したとたん、テンションがあがり、注意が緩むことも多い。カメラを構えたまま後ろに下がる光景は観光地ではよくあることだが、そこにしゃがんでいる生徒に気づかなければ、両者が思わぬけがをすることになる。もちろん、立っていてもぶつかる可能性はあるが、しゃがんでいる生徒の上に大人が覆いかぶさるように転べば、立っているときよりケガの度合いが大きい。だからしゃがむなというわけである。

 これは安全性ついての新人研修で受けた内容だが、当時、駅のホームでしゃがむことを嫌がったのは正しかったじゃんと思ったのである(笑)。難色を示した教師たちもこの説明にたいていは納得してくれた。点呼も大事だが、ケガをさせないことはもっと大事なのだ。

 先生が生徒を、上司が部下を理解するのにも役立ちそうな行動分析だが、逆の立場で行動分析をすると生徒や部下が先生や上司に失望してしまうかもしれないが、理解することで苦手な人間関係には役立つであろうと思えた一冊だった。