鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

なまえのないねこ

 久しぶりの投稿。先週、歯医者さんに向かう途中で立ち寄った書店で、店頭に並んでいた一冊。立ち読んだ後も、ずっとジャケットの猫が頭の中に残っていた。絵本は買っても読み返す頻度が低いので買うのをためらっていたが、一週間たってもこのイラストが頭を離れず、ポチっとオーダー。

 『なまえのないねこ』(文:竹下文子 絵:町田尚子)

なまえのないねこ

(以下ネタバレ)

 一匹の野良猫は、商店街のお店の飼い猫たちが持っている「名前」に憧れている。お寺の猫に「自分で見つければ?」と言われて、街の看板や商品名などあれこれ探し回っているうちに雨になり、公園のベンチにうずくまって雨宿りをしていると、一人の少女が声をかけてきた。

「ねえ。おなか すいてるの?」

あ。

やさしい こえ。

いい におい。

「きみ、きれいな めろんいろの めを しているね」

  そのとき猫はほしいのは名前よりも名前を呼んでくれる人だということに気づく。そして少女は「メロン」と名づけ、家へ連れていく。

 猫目線、ヒト目線で描かれたイラストが秀逸で、物語を引き立たせてくれる。個人的に野良猫の行動を眺めるのが好きなせいか、ページを開くたびにリアル感が漂う。

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 各ページに必ず主人公が描かれている。小さく描かれている主人公を探すのも楽しいし、家政婦は見た的な姿も愛くるしい。作者とイラストレーターの猫たちへの愛情が感じられる作品である。

 なまえに憧れる猫。『吾輩は猫である』の猫のように飼い猫でありながら、名前のないまま生涯を終える猫もいる。少女に名付けられた「メロン」の人生に幸あれと願うのであった。