鈴の文箱

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エセルとアーネスト ふたりの物語

 『スノーマン』の著者、レイモンド・ブリッグズが両親の人生を描いた一冊。

 『エセルとアーネスト ふたりの物語

エセルとアーネスト ふたりの物語

 漫画っぽい構成になっているので、読みやすかった。

 (以下、ネタバレ)

 1928年から1971年のロンドンで過ごした二人の出会い、結婚、そして晩年までを描いている。レイモンドの父アーネストは牛乳配達員、母エセルは上流階級の奥様専属のメイド。アーネストの実家はエセルを呼べないと語るほど、治安のよくないエリアで育った。エセルは11人兄弟の5番目だが、3人が戦死や病死で亡くしている。

 二人は恋に落ち、結婚し、ロンドンで新居を構える。25年ローンで庭付き住居を購入。少しずつ家具を買い足して、アーネストは日曜大工もし、快適な空間を作る。結婚当時、エセルは35歳。子供ができず悲しむエセルだが2年後にレイモンドを身ごもる。高齢出産で難産の末、無事出産したが、担当した産科医から二人目はあきらめた方がいいと言われる。

 レイモンドは順調に育つ。平凡な家族の日常会話に当時の社会状況がうかがえる。第二次世界大戦がはじまり、家族でガスマスクをつけたり、ラジオから流れる国王のメッセージ、子供の疎開と苦難が続く。戦後の経済成長と「社会保障ゆりかごから墓場まで」と福祉国家となったことを喜ぶアーネストだが、エセルは懐疑的だったり。

 レイモンドが奨学生試験に受かり、高等中学に受かったときはエセルは大喜びだったが、アーネストは「上流階級ぶったりしないといいがな...」と心配する。

 エセルは上級階級の奥様つきのメイドでおそらく教育の大切さを実感したのだろう。レイモンドの教育にはとても熱心だった。いずれオックスフォードかケンブリッジに行って労働者ではなく管理職なってほしいと望んでいたが、レイモンドは期待に反して美術学校に行く。経済成長とともに家庭の中でも洗濯機、電話、冷蔵庫、車など生活水準が少しずつ上がっていく。

 そしてレイモンドは非常勤の大学の美術講師になる。久しぶりに里帰りしたレイモンドは髭と髪を伸ばし、婚約者ジェーンを連れてくる。ボサボサ頭のレイモンドに髪をとかしなさいと櫛を差し出すエセル。そんな母と息子の様子ががほほえましい。

 晩年、エセルは認知症になり、アーネストのことすら認識できなくなり他界。亡くなったエセルはなぜかストレッチャーに寝かされ、入れ歯も雑にねじこまれている様子にレイモンドは憤りをかくせない。その後、アーネストも体調を崩し、同じ年に逝ってしまう。

 41年間住んだ二人のスイートホームは売りに出される。庭にはレイモンドが子供のころに植えた大きく育った梨の木をレイモンドとジェーンが見上げるところで終わる。

 エセルとアーネストは戦前、戦中、戦後の状況の中、苦労も多かったはずだが、家庭生活の中にささやかな幸せを見つけるのが上手だと思った。生真面目なエセルは取り乱すことがあるが、陽気なアーネストがそれを吹き飛ばすという感じだし、楽観すぎて浮足立つアーネストをたしなめるエセルもまたよい感じで、そんな二人に育てられたレイモンドが両親の生活を描いたこの作品には、両親への愛情が感じられた。

 

 この作品は数年前に映画化されて、日本でも9月28日から上映予定。ツイッターのキャンペーンに参加したらバッジが当たったので、ちょっと気分が高まったところで見に行こうかなっと...(笑)

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『エセルとアーネスト ふたりの物語』予告編