鈴の文箱

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ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣

 Amazon Primeの彫像のようなサムネイルに思わずクリック

 『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣(字幕版)

(以下ネタバレ)

 バレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー。

ウクライナ出身、19歳でイギリスのロイヤル・バレエ団のプリンシパルになる。イギリスに渡る前までは、ウクライナ南部のヘルソンで生まれ育つ。生まれつき体が柔らかく、その天性を生かすべく母親は息子を器械体操からバレエへと導く。地元を離れキエフのバレエ学校へ。厳しい経済状況の中、父や祖母が海外へと出稼ぎに出てセルゲイの学費を捻出し、その期待に応えようとセルゲイも努力を惜しまない。才能をもっと伸ばすために母親はロンドンへ連れて13歳の彼をロイヤル・バレエ団へ。才能が花開いて19歳でプリンシパルになる。絶大な人気を誇る一方、両親の離婚で精神的に不安定になる。2年後ロイヤル・バレエ団を退団。母国に戻り、テレビのオーデションを受けたりして、再び舞台に立つがどこか心は満たされないまま。痛み止めや亢進剤などを飲みながら踊る姿は痛々しいほどだ。その後、自分の好きな曲、友人の振り付け、有名な写真家によって作られたビデオがyoutubeで注目され、彼は再び世界から注目されるようになる。

 私はバレエ音痴なので、彼を知らなかったが、この映画で彼の踊る姿は本当に美しい。力強くエレガントで見ている人を魅了するという、ありきたりな表現しかできないが、ミケランジェロの彫像が踊ったらこんな感じだろうなと思う。

 スポーツ、芸術、文学といった様々な分野において、類まれな才能と実力をもった人の苦悩は、多くの映像や書籍で知るが、実際には凡人の私の想像をはるかに超えた苦しさだろう。

 若きプリンシパルで脚光を浴び、公演とレッスンで肉体的にはクタクタで、プレッシャーもあり、支えとなる家族も遠く離れてバラバラで加えて両親の離婚という若いセルゲイが荒れていくのは無理もない。

 母国に戻ったセルゲイがオーディションを受けるシーンでは、観客はシビアな視線で彼を観る。ロンドンで絶賛されていたセルゲイの評判もロシアでは通用しない。

西はいつでも正しいのか?

 何かのインタビューでプーチン大統領が語った言葉。日本のように海外での評価を寛容に受け止める国ではないのだろう。私がカナダ留学していたころに出会ったロシアやウクライナの移民の人たち、アパートの大家もロシア人だったが、褒めて育てるカナダ教育には懐疑的だったし、アイスホッケーの試合でもポイントが入るとビール片手にワイワイ騒ぐカナダ人とは対称的に、じっと画面を凝視して「戦略が甘い、あれじゃ子供の遊びだ」みたいな会話をボソボソっとする。

 セルゲイの母も厳しいママンだ。この映画の後半で彼が初めて両親と祖母を舞台に招待し、楽屋で抱き合う姿に心が救われるというか、ああ、良かったと素直に感じた作品だった。


映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』予告編

  一つ気になったのは、時を追うごとにタトゥーの数が増えていること。彼を見ているとタトゥーが自傷行為に思えてしまうのは私の考えすぎだろうか。

 今年の動画をチェックすると、こめかみにハート、胸の中央にはなんとプーチンのタトゥー。 ま、飽きたらレーザーで消せばいっか、的な感じなんでしょうかね。
美しい肉体美ゆえにタトゥーのような装飾がちょっと残念(笑)


Sergei Polunin - Take Me to Church (live at the 2019 Bravo Awards)