アマゾン・ビデオで『世界一キライなあなたに』にサム・クラフリンが出ていたので目の保養(笑)に観ていたら、ただの恋愛映画とはちがってラスト・シーンはちょっとショックを受けた。
車いす生活の青年実業家と、介護のために雇われた女性の恋の行方は!?映画『世界一キライなあなたに』予告編
文庫で630ページ、長編ともいえる原作も、私の脳内でエミリア・クラークとサム・クラフリンが映像移入してくれたので、すいすい読めた。
『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』 ジョジョ・モイーズ著
(以下ネタバレ)
主人公のルイーズ・クラーク(通称:ルー)は地元のカフェに働いている平凡な女性。ある日カフェが閉店となり、職を失った彼女がハローワークに通ってようやく見つけたのが自宅介護の仕事。担当するのは青年実業家のウィル・トレイナー。仕事でもスポーツでも旅行でもアクティブにこなしていた彼が、交通事故で四肢麻痺となり、かすかに動くのは手と首から上だけという生活を送ることになり、心を閉ざしていた。ウィルの母親はそんな彼を心配し、ルーを雇うのである。
ルイーズとウィルの家庭は、ブルーカラーとホワイトカラーという設定。父親の職業も不安定で、家族はルーの働きを頼りにしているので、やっと決まったこの仕事を簡単にやめるわけにはいかない。当初、ルーはウィルの家庭環境にとまどい、おどおどしてしまう。通いの看護師ネイサンがいて助けてくれるがいつもというわけではない。ルーのやることなすことが気に入らないウィルは嫌みばかり。そして、あるときルーはキレるのである。
そんなクソ野郎みたいな態度とらなくたっていいじゃない!
腫れ物にさわるような人たちにイラついていたはずのウィルだが、どストレートの言葉に一瞬だまってしまう。
(略)でもね、わたしはただここに来る日も来る日も通ってきて、せいいっぱいちゃんと仕事しようとがんばってるだけなの。だからね、悪いけど、私の毎日までほかの人たちみたいにみじめにしないでくれる?
それじゃ、もう君はいらないと言ったら?
私の雇い主はあなたじゃなく、お母さまなの。だから彼女がもう来なくていいというまでは出ていきません。でも、あなたのことが心配だからとか、このくだらない仕事が好きだからとか、あなたの人生をどうか変えてやりたいとか、そういうんじゃありませんから。わたしはお金がいるの。分かる?わたしはどうしてもお金がいるのよ!
これを機にウィルのルーに対する態度が少しずつ変わっていくのである。
この作品は、ウィルを通して障害者側の気持ちが丁寧に描かれている。「可哀そうに」の同情のまなざしや親切な声掛けから読みとれる人々の思惑、些細な不便さが日常生活に支障をきたす状況、またウィルを見る世間の人たちの視線や所作、そして感情も正直に描かれている。ルーのとまどいも介護経験のある人なら共感できるだろう。また、ルーがSNSで知り合った四肢麻痺の人たちの話や介護の経験談などもリアルで、そこからルーはいろんなことを学んでいく。
二人は少しずつ心を通わせていく。彼の母親はその様子を見てある種の期待を抱く。それはウィルが「安楽死」をやめてくれること。ウィルは弁護士を通してスイスでの「安楽死」の準備を進めている。それが半年後なのだ。
ウィルは小さな町にくすぶっているルーの視野を広げろと助言し、ルーは何もしたがらないウィルに以前のように出かけることを勧める。二人の間によい感情が生まれてのは確かではあるが、ウィルの決意は変わらない。
ずっとウィルのそばにいたいと願うルーだが、自分に縛られてルーの可能性を逃してほしくないと思うウィル。
ウィルが事故にあわなければ二人は決して会うことはなかっただろう。住む世界が違うといってもいいかもしれない。ウィルにとってルーの愛情はうれしいが、でもその人生はウィルの望むものではない。この先も自分の望んだ人生は得られないから決意が変わらない。だからこそ、可能性があるルーに外に出てほしいと思うのだろう。今まで足かせとなっていたルーの家族の経済的事情も、ルーの父親に仕事を紹介したりなどバックアップもぬかりない。
ウィルの決意は変わることなく、スイスで自ら命を終える。ルーはウィルの両親とともにスイスに同行し、彼を見届ける。
数週間後、ルーはウィルから手紙を受け取る。そこにはウィルの指示が書かれていた。彼の弁護士のところへいき、ルー名義の口座(家を買うお金と、大学の学費と生活費)を受け取るようにと。ウィルのルーへの愛情がその手紙にあふれていた。
僕のことをあまり考えるな。君がめそめそしてばかりいると思うのは嫌だ。ただ、よく生きろ。生きろ、ひたすらに。
ルーに大きく羽ばたいてほしい。ウィルは女性の成長を願う男性なのだ。これでルックスがサム・クラフリン、もう気絶もんです(笑)。