新型コロナウィルスの影響がますます大きくなっている。3月冒頭からの学校休業で卒業式に関する計画変更を余儀なくされ、卒業する生徒さんはもちろん先生たちも困惑されただろう。
2年前にブログに書いた『校長式辞12か月』。もし、このような本を参考(というかコピペ)に卒業式辞を準備していた校長がいたとしたら、その式辞をどう変更したのかなと意地悪な想像を巡らせてしまった。
というのも、今日の朝日新聞の広告特集「今年、卒業を迎えた君たちへ」という記事を目にしたからである。
そこには8校の大学の学長や高校の校長からのメッセージが掲載。
今年は新型コロナウィルスの影響で例年通りの卒業式ができなかったことに触れている。そのあたりを抜粋してみよう。
今年は規模を縮小して卒業式を行わざるを得ませんでした。しかし、少しでも君たちを元気づけようと、先生たちで作った3年間の歩みやビデメッセージを上映した時の、弾けるような笑顔に、我々も元気づけられました。
残念ながら今年は新型コロナウィルスの影響で規模を縮小しての卒業式でした。当日は在校生の参列もなく、合唱も省き時間も短縮という形で行わざるを得ませんでした。この場を借りて私から改めて卒業生の皆さんにメッセージをお伝えします。
今般の新型コロナウィルス感染リスクを最小限にするために、式典を中止し簡素化した卒業式となりましたが、所定の学業を修め立派に成長した皆さんを送り出すことを、教職員一同嬉しく思い心から祝福いたします。
今年度は規模を大幅に縮小して学位記授与式を行うことになりました。大変残念なことと思いますが、式に参加できなかった方たちの心の声を、皆さんの心で感じていただければと思います。
残念ながら全員が集まっての卒業・修了式は挙行できませんでした。しかし、未来のリーダーとなる皆さんがこの大学から巣立っていかれることに何も変わりはありません。溌剌と元気いっぱい、旅立ってください!
上記5学長&校長のメッセージは「残念」モード。そしてがっかりしているであろう学生たちへの「励まし」モードで締めくくっている。個人的には残念モードはお祝い気分を下げる気がする。
残り3校は新型コロナウィルスに関連付けて学生への問題提起を示している。
残念モードはあるが、「何が起きているのか、自分はどう生きるのか」と漠然だけども提起は示されている。
新型コロナウィルの影響により、誠に残念ながら卒業式・修了式を中止する決断をしました。皆さんの気持ちを考えると大変申し訳なく思うと共に「今、日本と世界で何が起きているのだろうか」「自分はこれからどう生きていくべきなのか」といったことを考えるきっかけになればと願います。
こちらは、残念モードがないのが好感が持てた。ただ、もし私がここの卒業生だとしたら、「VUVAとは...」あたりで寝ちゃいそう。
新型コロナウィルスの感染が世界的に拡大し、社会の不安定性が一層高まりました。2016年のダボス会議で使われたVUCA(ブーカ)社会がまさに出現しています。VUVAとは.........(略)。では、このような社会を生き抜くために何が必要でしょうか。
8校の中で、個人的に心に響いたのがこれ。
諸君は自らの卒業式を通じて、例年の卒業生には無い学びを体験することになった。新型コロナウィルスへの感染予防のため、開成でも国でも様々な組織で意思決定なされているということである。意思決定は判断、および決断によってなされる。判断とは多くの選択肢から論理的比較検討をし、一つの解に到達していくもので、決断とは情報データが不足している場合でもアクションを取らなければならない。緊急を要する状況下で行われるものである。
まず、残念モードがない。「例年とは違う卒業式から学びがあるよ」と提起し、その後、理路整然とした説明がわかりやすい。
過去の卒業生が学べなかったことが今回の体験から学べる
(それは何か)↓
感染予防のために組織で意思決定をすること
(意思決定とは)↓
判断と決断によって行う
(判断とは?決断とは?)↓
判断:多くの選択肢から論理的比較検討をし、答えを出す
決断:情報データが不足している場合でもアクションを取り、緊急を要する状況下で行う
今年の卒業生は「組織の意思決定」を学べたというのである。残念モードどころか、ラッキーモードではないか。読解力の低い私ですらわかるほど、単純明快である。文中からすでにお分かりにように、これは開成高等学校校長の柳沢幸雄氏の言葉である。続くメッセージもわかりやすくリーダーシップに触れている。
時にリーダーは、未来に向かって決断を迫られる。それが妥当か否かは、歴史の審判委ねられるだろう。リーダーとは、未来に結果責任を負う役割なのである。
現在の各国のリーダーや世界機関のリーダーたちからも意思決定の良し悪しを学べということか。
我々の未来は常に不確実で、数多の選択肢から決断をしていかなければならず、我々もまた自己の決断を重ねるリーダーである。諸君はこれからの多くの人生の岐路に立つが、多くの知識を集積し適切な判断ができるよう学び続け、そして果敢な決断ができるよう、挑戦し続けてほしい。
励ましモードで、具体的なアドバイスとして「知識の集積」が示されている。そして最後は校長の座右の銘で締めくくる。
学問とは、それ自身が尊いものではない
学べ、学べ
学んだすべての物を世の人のために尽くしてこそ価値があるのだ
学んだことを世の中で体現せよ。
実際にこういった人たちと一緒に仕事すると、この凡庸な私ですら良い刺激を受ける。チームワークもいいし、それこそ生産性もいい。そういう人は自然とリーダーとなっていく。この校長先生のメッセージは私にとってすべて合点がいくのだ。
令和時代になって、校長式辞の本は減ったかなと思いきや、さらにバリエーションが増えて選り取り見取り。教育開発研究所は実に多くの「虎の巻」を出版していて感心する。それだけ需要が高いというのか....
1月に出版された実例集。『令和時代の校長講話66実例集』
「令和時代」とつけてるが、まだ1年も経ってない。何か特別な講話が盛り込まれているのだろうか。
校長といえど、式辞や講話が苦手な方もいるだろう。ならば、こういう本に頼る前にスピーチ関連本を選んだらどうだろうか。
『ソニー歴代トップのスピーチライターが教える 人を動かすスピーチの法則』
数々の著名なスピーチの構成を分解して解説。
彼らがなぜ、聴き手の心を動かしたのか、秘められたテクニックも合わせて紹介します。
どうやったら、相手の心に届くのか。自分の気持ちが分かってもらえるのか。
コミュニケーションに悩むリーダーに読んでいただきたい、伝え方の教科書です
そう、校長は学校のリーダー。生徒の心を動かす、生徒の心に気持ちを伝える。そうした知識の集積のためにも、実例集に頼らず自らの言葉でメッセージを発信してほしいと願っている。