鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

自分のついた嘘を真実だと思い込む人

 日曜日の朝刊で、広告欄に朝日新書の新刊の紹介がありました。

あなたの身の回りには、まるで「息をするように嘘をつく人」はいないだろうか。しかも自分がついた嘘なのに、「真実」だと思いこみ、いつのまにか被害者面。本書ではその精神構造を読み解き、被害を受けないための防衛法を説く。 

片田珠美著 『自分のついた嘘を真実だと思い込む人』

自分のついた?を真実だと思い込む人 (朝日新書)

  嘘を真実と思い込み、平然と嘘をつき続ける。私には2人、心当たりがいます。叔父と叔母(K叔母)です。長年疑うことなく彼らを信じてきたわけですが、二年前にひょんなことから相次いで嘘がバレました。

 詐欺とまではいかないにしても、騙されることは決して気分のいいことではありません。今後の予防に覚書として記しておこうと思います。(ちょっと長いです)

 

嘘には二種類ある

  • 事実をあえて告げない→「不作為の嘘」
  • 作り話をする

たいていこの二つはセットで用いられる。

 例:小保方氏のSTAP細胞の件

 論文での画像の切り張り、「コピペ」や画像の盗用を「あえて」告げない

 「STAP細胞はあります」「200回以上成功している」と記者会見で主張(後日、実験で証明できず、結果作り話とみなされる)

 

嘘をつく3つの動機

  • 自己愛
  • 否認
  • 利得

 

 例1:自己愛+利得

 ある編集者が「有名作家との打ち合わせ」という名目で高級レストランでの食事代を経費として請求。しかし、そのレストランにその作家先生とは一度もいったことがないことが判明。原稿をもらってくることなどできなかったが、「先生は病気で執筆できない」と嘘を重ねる。

 自己愛:有名作家の原稿をもらってくる→自分が優れた編集者だという印象を与える

 利得:経費を得る

 

 例2:自己愛+否認

 自称「医師」と吹聴していた女性。通っていたスポーツジムのメンバーが、もらった名刺先の病院に電話で問い合わせたらそんな女性が存在しないことが判明。また、その女性が卒業したという医大の卒業名簿に彼女の名前が掲載されていないことも判明。ジムのメンバーに厳しく問い詰められても、「医師」と主張し続けたので、「医師免許を見せてくれ」というと、「医療過誤事件を起こして、取り上げられている」と答える。

 自己愛:「医師」であることを誇示

 否認:嘘がばれたあと、自分が一度は医師免許を手にしたことがあるかのように装うために、医療過誤事件で取り上げられたという作り話によって、自分が嘘をついていたことを否認する。

 

イネイブラーという存在

 イネイブラー:嘘をつき続けることを可能にする人たち

 なんとなくおかしいと感じながらも「まさか」と思う気持ちの方が勝ってしまう。こうした心酔者を生むのは、平然と嘘をつく人に共通する特徴ともいえる。

 これは「他者の欲望」を察知する能力に長けているからだろう。「他者の欲望」はフランスの精神分析家、ラカンの用語であり、彼は「人間の欲望は他者の欲望である」と述べている。

 例:小保方氏「iPS細胞に負けないような万能細胞を作りたい」という上司の欲望を察知、さらに「簡単に万能細胞が作ることができたらいいのに」という大衆の願望を感じ取る。上司も大衆もそんな彼女を信じてしまう。

 嘘つきの周囲には、嘘をつき続けることを可能にし、ときには嘘に拍車をかけるイネイブラーが存在することが多い。一度イネイブラーになってしまうと、嘘の呪縛からなかなか抜け出せない。誰かを信じるということは、その人を信じている自分を信じることでもあるので、嘘の証拠を目の前に突きつけられても、なかなか受け入れられないからである。

 

虚言症(mythomanie)

真実を改変し、嘘をつき、空想的な物語を作り出す作り話と、身体的な異常状態を模倣する詐病とが常にみられる体質的な異常状態

空想虚言症(Pseudologia phantastica)

妄想とは異なり、現実との矛盾に直面すると、容易に細部を改変する

 

なぜだまされるか

われわれの多くは実は真実なんか知りたくないということだ

 例:夫が浮気を隠すために嘘をついていることに薄々気づいていながら、見て見ぬ振りをしているような妻

 3つの理由

  •  表向きは平穏無事で、傍目には恵まれているように見える生活に波風を立てたくないという気持ち。
  •  離婚して経済的に困窮するのではないかという不安から、現実に目を向けたくない、夫の嘘にきづいていないふりをあえて続ける
  •  嘘をあばくことで、世間の笑い物になるのではないかなど、世間体を気にする

 世間体を気にする人ほど、欺瞞のベールで覆われた真実に目を向けようとしない。

 

嘘を見て見ぬ振りをする心理

 怒らない寛大さ:虚栄心、怠惰、恐怖

  •  他人の嘘をあばいて、もめるのは嫌だ。自分が直接不履行をこうむらないのであれば「我関せず」で寛大な態度を示したいという虚栄心
  •  嘘をあばくための時間とエネルギーを費やすことが面倒くさいという怠惰
  •  復讐されるかもしれないという恐怖

 

だまされやすい人の特徴

  •  現状に不満(自分に欠けているものをなんとか補いたい)

 例:体型などにコンプレックスを抱いているところに、高額なダイエット食品や美容機器を勧める。

  •  孤立している(不安、孤独感、孤独死への恐怖)

 例:一人暮らしの不安から、老後の資金を増やしたいが低金利で思うようにいかないところに、ありえないような高金利の投資話を持ってくる。

 

「あえて言わない」うそつき

事実を言わない人は、ほとんどの場合、自分が相手に何を言っていないのかを自覚している。

 例として、ここは、私の祖父のケースを取り上げたいと思います。

 長女だった母は地元を離れ就職、その後結婚を機に上京したので、弟や三人の妹の様子は祖母からの手紙がほとんどでした。祖母が他界してからは、実家の様子が耳に入ることが少なくなり、祖父が訪ねてきたときに話を聞くだけでした。

 祖父があえて言わなかったこと、それはK叔母が地元の銀行に入ったのは、成績優秀だったからではなく、地元の名士のコネで入ったこと。そして、叔父(母の弟)が解雇されて無職だった二年間、祖父が家計を支えていたこと。

 他の二人の叔母たちはこの事実を知っていましたたが、母にあえて言いませんでした。完全なイネイブラーです。たわいのないことですが、この事実を知ったのは祖父が亡くなって何十年も経ったときでした。叔父の解雇のことは、二年前の末っ子の叔母の葬儀で叔父の妻がぽろっと漏らしたことがきっかけでした。また、K叔母のコネ入社の件は、母が同窓会に出席したときに、その名士の親戚だった同級生から話を聞くことで判明しました。

 母の怒りは尋常ではありませんでした。母が大学進学希望をしていたことを知っていた祖父は、受験直前になるまで何も言わず、突然、大学は出せないから働けと言ったため、就活に出遅れた母は仕事に就けず、卒業後、家事手伝いをしていましたが、祖父から「働かざるもの食うべからず」「どこでもいいから働きに出ろ」と言われ続け、ついに家を出て他県に就職することになったのです。

 ですから、祖父が二年間プー太郎だった叔父をサポートし、就職が決まらなかったK叔母に地元の名士にコネを頼んだことなど、母には言えるはずもありません。祖父は確かに作り話はしていませんが、「あえて言わない」ことで、母を欺いた結果になりました。何十年も騙されていたという事実は嘘の内容云々よりもはるかに重いものです。

 祖父の「あえて言わない」嘘は、叔父と叔母の虚言癖を育ててしまったように思います。結果的に祖父が母を欺いたことで、叔父と叔母は母に対して嘘つくことにためらいがなく、イネイブラーである他の叔母たちによって、ますます二人を助長させてしまったとも言えます。

 祖父が晩年介護施設に入所したときに、祖父の恩給で十分賄えるにもかかわらず、叔父は入所費用が高額で恩給では足りないから兄弟で折半したいと嘘をついたり、叔母は一人暮らしだった末っ子の叔母が入院したとき、遠方に住む高齢の叔母から見舞金を預かったものの、見舞いに行ったふりして着服し、その着服がバレてもなお、嘘の上塗りを重ね続け、結果的に、その見舞金は届かぬまま末っ子の叔母は亡くなってしまいました。

 いずれも不審に思った私や周りの人たち助言によって、母が施設に確認したり、見舞いの様子をしつこく質問しまくったことで嘘と判明しましたが、母もイネイブラーだったので、その呪縛を解くのは容易なことではありませんでした。それでも二人は懲りずに平然と嘘をつきます。おそらく死ぬまで嘘をつき続けるでしょう。

 

嘘を見抜くための「プチ悪人」

  嘘つきと戦うにはちょっとした悪人にならなければならない。

  1. 疑う:態度が変だ、何か隠しているのではないかと感じる感覚を尊重する
  2. 質問する:嘘をついている人はなんとかつじつまを合わせようとする。そのときこそ敵失を誘い出すチャンス。
    質問に答えるために新たな嘘を考え、しかも以前話したことと一貫性を保つことは、心理的負担が大きいので、どんどん質問してボロを出させる。
  3. 自分が知っていることはしばらく黙っておく:疑いの根拠になった情報はすぐには見せない。刑事もので言えば、「泳がす」のである。その間、詳細な情報を集め、わかっていることを伏せて、唐突に意地悪な質問をする。
  4.  以前話したことを繰り返してもらう:事実に基づかない話は、以前話した内容と矛盾するようなことを口にする恐れを自覚しているため、自己防衛のためにできるだけ話さないようにしようとしたり、詳細を避けようとする。
    傾聴の姿勢を持つ:自分の話しを聞いてもらうのは心地よいものであるし、しゃべらせている間に表情や仕草を観察できる。
  5.  嘘をついているときと通常の言動を比較する:日頃、どういうときにどのように振る舞うのか、どんな状況のときにどのように発言するのかを覚えておく
  • 相手に説明させる:自分のついた嘘を真実と思い込む人は、嘘をまくしたてるので、調子に乗りすぎて一貫性のないことを喋ってしまうことが多い。
    例:理研調査委員会が研究不正と結論づけたことに対して、不服申し立てを行った小保方氏の会見で、「200回以上成功している」という発言を引き出したのは、その場で質問した記者たちの功績である。

 

 相手の嘘を見抜いたときのふるまい方

  嘘を暴いたときの相手の行動として考えられるもの

  • 相手が心を閉ざす
  • 相手が嘘の上塗りに始終する。虚言を弄してでも我が身を守ろうとする
  • 嘘がばれた自体に直面した相手が反撃に出る。嘘を暴いた相手に「いじめられている」と被害者面して周りに訴えたり、陥れるためのデマをあちこちに吹聴する。反撃された場合に備えることも必要

 

 誰でも大なり小なり嘘はつきます。私も嘘をつきます。アンケートの年齢欄とか、病院の問診票の体重とか....。でも「息を吐くように嘘をつく」人を見ていると、怒りを通し越して哀れに思います。嘘がバレたとき、個人的なレベルで人の信用を失くす場合もあるし、小保方氏のように社会的な信用を失う場合もあります。エスカレートすれば、詐欺などの犯罪に発展しかねません。

 嘘つきには大きなツケが回ります。これは、子供の時に読んだ『稲羽の白うさぎ』や『ピノキオ』、イソップ童話の『狼少年』が教えてくれたことです。