鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

ゴーン劇場

 今年最初の投稿。

 お正月明けの1月8日。ネットで日産自動車前会長のカルロス・ゴーンの記者会見を観た。「観た」というのも、記者会見というよりゴーン劇場だった。4,5か国語で質疑応答に応える姿はまさに「グローバル」の経営者にみえるが、今は逃亡者である。

 経営戦略を冷静に語った彼も、自分のリバイバル・プランにはかなり力が入ったようで身振り手振りの大演説。

 この著書の面影はもうない。

ルネッサンス ― 再生への挑戦

ルネッサンス ― 再生への挑戦

 

  会見を見ていたら、数年前の日産の株主総会を思い出した。確か会社の景気があまりよくない状況での総会だったと思う。

 中国系(?)女性の株主が「あなたのこの報酬は高すぎませんか?」と質問したとき、今回のように身振り手振りで早口で話したのが印象的だった。「確かに日本企業の社長さんは私より少ないけれど、グローバルスタンダートで考えると決して高くない。私の日産での実績を考えてくれれば妥当だと思う。」と愛想笑いを浮かべていた。

 さて、会見では逃亡の過程については触れず、日産幹部への批判と司法への不満を熱く語る。彼の会社法違反については、そもそも海外のメディアが日本の会社法についてどれだけ知ってるのかは疑問である。

 「日本のメディアから質問はないか?」と余裕をかまし、会場に入れた数少ない日本のメディアの中で、テレビ東京小学館から質問があった。

 「英語で質問しないと答えないよ」とゴーンにからかわれ、たどたどしい英語だったけどテレ東の記者はがんばった。

「あなたは日本で尊敬されたCEOだった。しかし、今は日本の法律に違反してここにいる。それは間違っていませんか?日本のみなさんにあなたの考えをお聞かせください」

 ゴーンは「確かに私は日本で人気のあるCEOだった。今でもそう思ってくれている人たちもいる。」と自信満々。「私が日産を復活させたことはみな理解している」と言ったのち「自分を守るにはこれしかなかったのだ」とばかりに法律違反の言い訳として検察批判アゲイン。

 小学館の質問は、

 日本のメディアが少ないのはなぜか?日本のメディアに対して怒りをもっているのか?

 ゴーンは「多くのメディアが来ている中で、客観性を持ったメディアを選んだ。会見場は広くないので、日本のメディアが少ない印象を受けたのではないか」と言ったが、んなわけあるかい!って感じ。

 ニューヨークタイムスの質問は鋭かった。

 あなたは日本の司法では公平な裁判が受けられないと言いましたが、レバノンの腐敗した司法制度のもとであなたの汚名を返上することはできますか?

  ゴーンは「レバノンには有能な人間がたくさんいる。腐敗しているというのならレバノンではなく他にある」。果たしてレバノンで潔白が証明されるのだろうか。

 翌日、東京地検がこのゴーン劇場についてコメントの声明を出した。

 被告人ゴーンは、犯罪に当たり得る行為をしてまで国外逃亡したものであり、今回の会見内容も自らの行為を不当に正当化するものにすぎない。

 とぴしゃり。

 「私がいなくなってから日産の株価が下がった」とか「私のリーダーシップを独裁者と誹謗した」とか、俺様発言だったり被害者ぶったりと忙しい発言が続くなか、ベルサイユ宮殿については特に熱弁をふるった。ゴーンのベルサイユ愛が半端ない(爆)


Carlos Ghosn s'explique sur sa soirée au château de Versailles

 金と権力におぼれてしまった逃亡者の姿は残念にほかならない。

 

 実をいうと、私の父は昭和時代の日産自動車の社員だった。

(写真は1950年代の入社したての頃と思われる)

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 父は部品販売部門にいて、私は子供のころから部品メーカーの社名を聞かされていたので、そのメーカーは今も親しみを感じる。父は文系だったが取引先の部品メーカーから技術的な知識を学んでいたため、「純正部品」のこだわりは強く、安価なイエローハットでバッテリー交換やカーステレオを選ぼうものなら「車を持つ資格なし!」とご立腹。「車を最高の状態に保つには最高の部品、それが純正部品だ」とよく語っていた。

 父が晩年、地方の部品販売会社に天下ったとき、その県内で二台のダットサンが乗られているらしく、その部品を含め、過去の日産車の部品はすべてあると言っていた。ディーラーからの要請にすぐに応じる、ときには直接顧客が部販会社に来ることもあったらしい。スカイラインフェアレディーZなど、歴代のファンが多いのも長年乗り続けてもらえるメンテナンス環境が整っていたからかもしれない。

 当然、保管倉庫は部品の山なわけで、数十年後、ゴーンにすればそんな数台しか需要のない採算の悪い管理など論外だったのだろう。

 家には父が大事にしていたダットサンのレプリカがある。私が物心ついたころから我が家にあったものだ。(いくつか破損した部分がある)

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f:id:mtwood:20200118004623j:plain「MADE IN JAPAN」が誇らしい。

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 これからの日産自動車はどうなるんだろうか。グローバルもいいけど、「技術の日産」に立ち返って、日本の技術向上とともに魅力ある車作りをしてほしいと願っている。