鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

カルト集団と過激な信仰

 久しぶりにアマゾン・プライムをのぞいてみると、興味深いドキュメンタリーがいくつかあった。その中の一つ。

 『カルト集団と過激な信仰』(原題:Cults and Extreme Belief with Elizabeth Vargas)。

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 エピソードは7つ。

  1. NXIVM(ネクセウム)
    啓発セミナーとして勧誘してきたネクセウム。しかしその実態は指導者に絶対服従を誓うカルト集団。性目的の人身取引、指導者のイニシャルをかたどった焼き印を信者の腹部に焼き付けたりと、被害者の証言が生々しい。
  2. エホバの証人
    日本でもなじみのあるキリスト教の分派。世界中に多数の信者を持つ。無害な印象を持つが、児童への性的虐待を数十年にわたり隠蔽されていた。元信者が隠蔽や虐待の実態を語る。
  3. 神の子供たち
    小児性愛で悪名高い宗教団体で幼少期を過ごした元信者の女性が、組織的虐待や脱会者の自殺率の高さを証言する。
  4. U.N.O.I
    黒人国家主義で自らをアラーの分身とする指導者は、虐待、子供の人身取引や無賃労働を行い、病に倒れた信者を放置し見殺しにする状況を元信者が語る。
  5. 世界平和統一聖殿
    日本でも「統一教会」として、芸能人が合同結婚式に参加したことで知られている。その統一教会を母体とするサンクチュアリ教会の指導者ショーン・ムーンは銃の所持を信者に唱えるようになった。その異様な風景が紹介されている。
  6. Twelve Trives Communities
    「12の使徒」という団体で、キリスト教の教えと厳しい規律のもとで共同生活を送る。カリスマ的主導者への絶対的な服従と子供への体罰を信念とする。自らの意志でその集団を離れた女性の証言はとても興味深い。
  7. FLDS
    モルモン教の分派として、アメリカ西部の片田舎に信者だけの地域社会を構成する。一夫多妻制で、指導者を予言者だと信奉するが、その指導者は児童婚により投獄され、残された信者たちの地域社会は破綻しつつある。現役信者と元信者の対話を通して教団の実態が明かされる。

 どのエピソードも衝撃的だったが、「神の子供たち」の指導者デビッド・バーグは自分の孫娘と婚約しようとし、性的関係を求めるという異常な変態ぶりは、まさに「反吐が出る」である。

 「Twelve Trives Communities」の元信者の女性の葛藤は見ていて辛いものがあった。子供の頃に、ギターを触っていないのに、同世代の男の子が彼女がやったと言われ、彼女が責められる羽目になった。否定するとそれを認めるまで個室に閉じ込められる。指導者の言葉が絶対なので、親は彼女を守るどころか一緒になって彼女を責め、そして体罰を与えるのである。団体から離れた彼女は今もPTSDに悩まされていて「いまだに心が自由になったとは感じられない」と語っていたのが印象的だった。

 各エピソードで司会者と心理学者が実態の分析はわかりやすい。それを聞いて感じたことは、どの団体にも通じているのが「支配と服従」である。

 そうした集団の中で育った元信者たちは、社会に出てからも苦悩を強いられる。偏った教育しか受けていない彼らは、仕事の探し方、アパートの契約の仕方、銀行口座の開き方など、日常生活に必要なことがわからない。せっかく自由になったのに、その社会生活でうまくいかず、そして心が病んでいくのである。

  カルトだから、宗教脳だからと、単純に括りたくなるが、「支配と服従」はどの組織も起こりえることである。職場や学校のパワハラ、セクハラなども行き過ぎた「支配」だろうし、また、支配的な親に育てられた子供が、社会に出てもうまく適応できずに苦しむのにも似ている。

 どのエピソードも元信者の証言は重い。また最終エピソードの現役信者の言葉も興味深い。信仰なのか、服従なのか、考えさせれる良い番組だった。