鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

こうやって、考える

 以前から読んでみたいと思っていた外山滋比古の著作は数多く、どれを選ぶか迷いに迷ってきた。たとえば、ロングセラーの『思考の整理学 (ちくま文庫)』は、書店で何度か手に取ってパラパラとめくってみたが、読み切る自信がなく毎回見送っていた。他を探してもますます迷う。

 そんな矢先に『こうやって、考える。』がPHP研究所から発売された。

 外山氏の作品からテーマごとに抜粋したものを一冊にまとめたもの。ただ、これは著者自ら選んだものではなく、編集者が抜粋し、著者が校正したものである。 

「はじめに」で、

 利用するところを選び出すのに、著者はほとんど無力である。「よろしく」とだけお願いして、できたのが本書というわけである。

  しかし、本書の中で、『本はきっかけになればよい』『わからないところを、自分の理解、自分の意味で補充するのである。一種の自己表現である。』と示されていて、これらの抜粋された短い文章から、自分の考えを導き出せというメッセージが感じ取れた。

 

目次は、

 第一章 発想力を鍛えるヒント
 第二章 思考のプロセス
 第三章 思考力を高める方法
 第四章 知性を磨く生活
 第五章 思考につながる読書
 第六章 発想が豊かになる〝おしゃべり〟
 第七章 未来を創るヒント

 

 出典は21冊からなる。

 著者の作品を読んだことがない私には、ちょうどよい入門編と言える。文字の大きさも行間も、読みやすいレイアウトになっている。パラパラとつまみ読みするにはちょうどよい。

 私が気に入った一つに『人生複線の思想』(みすず書房)の抜粋で、

借りものの知恵に頼りすぎない

 (略)自らの頭で考えて、外国を理解すれば、当然、誤解というものに陥るが、それを恐れては、オリジナリティは望めない。異説をたてることを認めないようでは子供の勉強である。発信力をもつには当然、独自の思考が必要だが、借り物の知識だけからは生まれないことを覚悟しなくてはならないだろう。

 SNSやマスメディアの情報だけを、受け売りの知識として語ることが増えた今、この言葉は響いた。

 そのほかに『人生複線の思想』から抜粋したものはないかとページをめくったが、これ以外はみあたらなかった。

 やはり、テーマごとに分けているため、出典の偏りは否めないのかもしれない。『知的創造のヒント』や『ライフワークの思想』は多かった。

 ひねくれた見方をすると、PHPの編集者が書いた読書メモをのぞいているような感じでもある。外山氏自身が選んだとしたら、まったく異なった内容になっただろうなと想像する。

 お気に入りのカーネギーの名言集は自身が気に入った名言名句をメモしたものをまとめたものにすぎないが、私が何十年も手放さずにいるのは、「著者が自ら選んだ」ところに価値があるからだと思う。

 『こうやって、考える』の読了後、ロングセラーの『思考の整理学 (ちくま文庫)』を読む気になったかというと、否である。