鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

毒親の棄て方

 最近、親子関係の事件が多い気がします。書店に行くと家族問題を取り上げた書籍が平積みしてありますし、昨日もこの下書きを書いているときに、ネットで40代の娘が80代の実母を杖で暴行し死亡させたニュースがありました。こうした高齢の母親の場合「介護疲れ」として、若い母親は「育児疲れ」としてまとめられてしまいますが、「〜疲れ」以前の母と娘の関係そのものが影響しているように思えます。

 

 スーザン・フォワードの『毒になる親(原題:Toxic Parents)』は「毒親」という言葉を生み、かなり衝撃的でした。その後、母親と娘の関係にしぼって書かれたのがこの一冊。

 

『毒親の棄て方(原題:Mothers Who Can’t Love)

毒親の棄て方: 娘のための自信回復マニュアル

 最初の章では子供を愛することができない母親の5つの典型的なパターンを紹介しています。

 

第1部 母親から受けた傷を確認する

 1章 母親の愛情を疑問視することのタブー

 2章 きわめて自己愛の強い母親

 3章 過剰に関わってくる母親

 4章 コントロールばかりする母親

 5章 世話を必要とする母親

 6章 ネグレクト、裏切り、虐待をする母親

 

 目次を見るだけでもかなりの毒母ぶりが想像できます。著者がセラピストとして向き合った患者たち(娘たち)のケースが紹介されています。母と娘の関係に絞っているだけに「女」としての関係にも触れています。

 

 第二部ではその傷をどう癒すかについてです。ここでは圧倒されるような感情に対処することになるので、頼れる人を作っておくことを勧めています。そしてセラピストを選ぶガイドラインも紹介していますが、北米に比べて日本国内で著者のようなセラピストはどれくらいいるのか、信頼できるセラピスト探しは難しいように思いますが、どうなんでしょう。

 

第二部 母親に与えられた傷を癒す

 7章 真実の始まり

 8章 つらい感情を認識する

 9章 怒りと悲嘆から英知は生まれる

 10章 行動を変え、人生を変える

 11章 境界をもうける

 12章 今どういう関係を望んでいるかをはっきりさせる

 13章 もっともむずかしい決断

 14章 老い、病気、孤独。急に頼ってくる母親

 15章 ついに、いい母親と絆を作る

 

 これらは自分の潜在意識を掘り起こしていくプロセスです。母親の誤ったメッセージによってプログラミングされた娘は、自分の中にある罪悪感やプレッシャー、大きな屈辱や不安や恐怖が無意識の中に隠されてしまっているというのです。

 

 精神世界の大半を隠しているカーテンを開けていくと、無意識がどんなに力をもっているか見え始めるだろう。娘が意識的に自分の課題を設定して現在を生きていこうとしても、彼女の無意識は過去の傷について必死になって釈明し、「母にわたしを愛させる」方法を探そうとしている。そして母親のプログラミングを使って同じような状況をリプレイし、子供の時代の失敗を正そうとするのだ。

 

 こういった娘の無意識のプログラミングは大人になってから仕事、結婚、人間関係や精神状態に大きく影響するわけです。

 

 8章の「つらい感情を認識する」では母親に向けて手紙を書くことで自分の感情を吐き出していきます。

書く内容は

1 あなた(母)がわたしにしたこと

2 そのときわたしが感じたこと

3 それがわたしの人生に与えた影響

4 わたしが今、あなたに望むこと

 母親の行動が自分をどのように傷つけたか、どんな重荷や屈辱を自分に与えたかを正直に書いていきます。

 

 癒しのプロセスは「これはあなたがわたしにしたことだ」という言葉で動きはじめる。この宣言は穏やかでもなければ礼儀正しくもない。きわめて直裁的だ。実際、それを目にすると、おなかにパンチを食らったように感じるはずだ。あえて「客観性」というベールをはずすために、「わたしに」という言葉をつけ加えた。これは個人的なことだ。そのため、それを言葉にし、紙に書いて認識することは、娘を解放し、その経験を娘に理解し受け止めさせるのにおおいに役立つ。

 

 また、著者は手紙を書く上で、「考え」と「感情」の違いについて説明しています。

 考えと感情のちがいははっきりしていそうだが、多くの人は理屈で説明しようとして自分と感情のあいだに距離をおきがちなので、あえて感情を見つめるようにと強調しておきたい。「私は感じた」が「私は……ということを感じた」になるとき、距離が置かれる。「~ということ」という言葉は、あなたを考えと信条にむかわせ、感情から遠ざけてしまうのだ。

 

 例として

感情「わたしは愛されていないと感じた」

考え「わたしはあなたがわたしを愛していないと感じた」

 

 これは英語の原文でニュアンスを確認したほうがよいかもしれません。おそらく、「わたしは愛されてないのかも...と感じた」とやんわりとした書き方ではなく、「わたしは愛されていないと確信した」とズバっと書けということでしょう。

 

 ここでも著者はこの手紙を書く前に強力なサポート態勢を整えることを勧めています。というのも激しい感情が湧き上がってくるので、落ち着かせ、慰め、励ましてくれる人にそばにいてもらうのがよいというのです。

 

 実は軽い気持ちでほんの少しやってみようと、便箋に向かって書き始めたら、体の奥からグツグツとマグマが動きだし、激しい感情が湧き上がって書くのが止まらなくなりました。最初はシャープペンでサラサラと書いていたんですが、そのうち芯がボキボキ折れて、ボールペンに替えて一気に8枚、びっしり。かなり集中して書いたので、終わったあとは放心状態でした。休憩してからも、あれこれと湧き出ては書きなぐるの繰り返しで、しかもすごい筆圧で書いていました。この激しい感情はなかなかおさまらず、母の声を聞いただけでイラっときたので、これは良くないと思って気分転換に風呂掃除をしました。かなり念入りに、しかも激しく...(笑)。やはり気持ちを沈めてくれる態勢を整えておくことが必要だと実感しました。

 

 第二部で参考になったのは、怒りや悲嘆のコントロールの仕方です。ずっと抑えこんでいた怒りがある日突然爆発したり、または抑え込んでいるために肉体的症状が現れたり、こうした負の感情は心身ともにマイナスに影響します。かといって、母親に怒鳴ること、つまりその怒りを表現することで折り合いをつけようとしても、母親はその怒りを聞いてないから(というより聞く気もない)、かえって無力感を感じることになると指摘しています。

 

 自分の怒りをコントロールすることは、単に抑えることではなく、まず、傷つけられた自分が怒りを感じるのは当然であると肯定的に受け止めて、そしてその怒りが何を気づかせようとしているのかをみていく。それによって自分の行動を変える必要があれば変えていく。相手は変わらないわけですから、自分が変わるしかない。そして運動したりリラックスできる場所で気分転換し、怒りをひきづらないのも大切。体を動かすことは幸福感に関わっている脳内物質エンドルフィンを放出させて効果的だとか。

 

 余談ですが、何かの番組で美輪明宏が「つらい感情に襲われているとき、人は息をつめているものなのよ。だからつらいときこそ大きく深呼吸をするの。そして体の中の負の気を外に吐き出すのよ」と言った言葉がいつも頭をよぎります。親子間で芽生える負の感情も上手に吐き出すことで自分を健全に保っていけるのかもしれません。

 

 著者はさらに今後の母親との関係をどう築いていくかについていくつかパターンを紹介しています。母親との関係を変えていくことで罪悪感に襲われたり、親戚や周囲に避難されるかもしれないが、自分の人生で新たに手にいれた権利を手放さないようにと著者は念を押しています。母親に対する娘の責任は娘自身が決めるものであり、肉体的・精神的健康を害してまで負うべきものではないと。母親が助けを必要とするならば、自分ができる範囲を決めてそれを譲らないことが大切。これは母親に背を向けろということではなく、境界を設定して良い関係を築いていくということです。

 

 読んでいるとかなりつらい部分もありましたが、紹介されたパターンは対処の参考にもなります。母親との関係に悩んだときに再読したいと思います。