鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

ジェイン・エア 3(リード夫人への反撃)

 

ジェイン・エア(上) (岩波文庫)
 

  気絶したジェインが目覚めたときは、薬剤師のロイドの腕の中でした。

 病気の時は夫人や子どもたちは医者を呼ぶのですが、召使いたちは薬剤師のロイドが診ていました。ジェインも同様の扱いです。

 ロイドはゆっくり休めるようベッシーに指示を出します。ベッシーは気絶したジェインに少しビビッていましたが、やさしく接します。

 「赤い部屋事件」後、ジェインは身体的な症状は回復したものの、精神面では大きなトラウマを抱えます。でも正気を失わずにすんでよかったです。

 ロイドは、ベッシーを部屋からはずし、ジェインを優しくカウンセリングします。

 エア家に親類はいないのか、もし親切で引き取りたいといったらどうするかを尋ねます。

 ジェインはリード夫人から、エアという低い身分で貧しい親類がいることを聞いていましたが、リード夫人が定義した「貧乏=堕落」の刷り込みがあり、エア家に対してよい印象をもっていませんでした。勤勉な恥じるところのない「貧乏」を知らなかったので、もし、エア家の親類が親切でも一緒になるのはいやと答えます。

 さらに学校についてたずねます。ジェインは学校には行きたいと答えます。ロイドは精神的に参っているジェインには転地が必要と判断します。

 

 「赤い部屋事件」後、夫人は3人の子どもたちとは、さらに一線を画し、一人で寝るよう小さな部屋を与え、食事も一人で、同じ空間に置かないようにします。

 それでもジョンはちょっかい出しますが、そんなジョンをめずらしくリード夫人は、たしなめます。それに口をはさんだジェインは、リード夫人に自分の部屋から出ないように言い渡します。

 ジェインはひるまず、無意識に反論します。

「リード伯父さんが生きていらしたら、何とおっしゃるでしょう」

 この言葉にリード夫人はこおります。

 リード伯父さんも、ジェインの両親も、夫人のやったことは天国からお見通しだと言い放つと、リード夫人は力いっぱい揺さぶって、両耳をビンタ。

 クリスマスも一人で部屋で過ごすジェインでしたが、年明けに変化が訪れます。

 

 リード夫人に呼ばれたジェインが居間に向かうと、そこにはローウッドのブロックルハースト氏がいます。

(左、中央の作品の方が、威圧感があります)

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 ブロックルハースト氏に呼ばれたジェインは、質問を受けます。しかし、ジェインが答える前に、リード夫人が口をはさみ、ブロックルハースト氏に誤解を与えます。そして、ジェインの欠点を直してほしい、休暇も学校においてほしいと頼みます。ローウッドでの新しい生活への希望が、リード夫人によってかき消されてしまうのです。

わたしが行こうとする道に嫌悪と酷簿の種をまいているのだと感じた。夫人によってわたしはねじ曲げられ、企みに長けた邪悪な子どもとしてブロックルハースト氏の目に映るようにされてしまった

 リード夫人は、今でいう「毒母(毒保護者)」ですよね。子どもがこれから新しい世界へ羽ばたこうとするときに、いちゃもんつけてモチベーションを下げまくったり、行こうとするその先にゴシップばらまくとか...。最悪です。

 ジェインのローウッド行きが決まり、ブロックルハースト氏は部屋を出ると、リード夫人とジェインだけになります。

 ブロックルハースト氏の前で侮辱を受けたジェインは、激しい怒りが沸き上がっていて、力を奮い立たせてリード夫人に反撃します。

「私は嘘つきではありません。嘘つきだったら、伯母さんが大好きだというところだわ。でも、はっきり言います。伯母さんなんか嫌いよ!」

 その後もジェインは、リード夫人から受けた仕打ち、いとこたちのいじめ、「赤い部屋」での夫人の冷酷さ、そしてもし聞かれたら、誰にでも本当のことを話すと息まきます。

 リード夫人の「世間体」を刺激したのは効果的でした。ジェインはこのとき経験をしたことのない高揚感を得ます。

リード夫人にはぎょっとした様子が見え、膝から縫物が滑り落ちていた。両手を挙げて体を前後に許し、泣き出しそうに顔をゆがめている。

 リード夫人はジェインのご機嫌をとりはじめます。それに屈するジェインではなく、リード夫人を責め、早く学校にやってくれと言い、承諾したリード夫人は部屋をでます。 

あとにはわたし一人が、戦いの勝者として残された。それまでで一番激しい戦闘、そして初めて手にした勝利だった。

 初めは高揚して笑みまで浮かべたジェインですが、自責の念に駆られます。

 復讐というものを、わたしはこのときはじめて味わったのだ。香りのよいワインのように、喉越しは温かで、豊かな風味があった。しかし、あとにはさびた金属のような金臭さが残り、毒でも飲んだような感じがした。

 それでもジェインはリード夫人に許しを請う気はありません。出発前日、リード夫人はベッドに潜っているジェインに

「私がいつもあなたとは一番の仲良しだったことを忘れずに、人にもそう言い、感謝するように」

どの口が言う!ですよね。

 翌朝、ジェインを見送ったのはベッシーだけ。ジェインは一人馬車に乗り込み、ローウッドへと向かいます。

 

 薬剤師ロイドの役割は大きかったと思います。「赤い部屋事件」で大きなトラウマを抱えながらも、リード夫人へ反論したジェインに胸がすく思いです。