鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

ジェイン・エア 6(ヘレンとテンプル校長)

 

ジェイン・エア(上) (岩波文庫)
 

  ブロックルハースト氏の命令で椅子の上に立たされていたジェイン。夕方5時の鐘がなり、生徒たちは食堂へ行ったので、ジェインは椅子から下りて、教室の隅へいき、床に突っ伏して泣いてしまいました。

ローウッドで良い子になり、たくさんのことをしようと思っていたのに。友達も大勢作り、みんなの敬意を得たい、愛されたいと思っていたのに。実際、成果もちゃんと表れていたのだ。私はその朝、クラスの一番になり、ミラー先生から優しいお褒めの言葉をいただいていたし、テンプル先生も賞賛の微笑を向けてくださった。

  ローウッドで積み重ねた努力を、リード夫人に嘘を吹き込まれたブロックルハースト氏によって、打ち砕かれてしまったジェインの失望が伝わってきます。

 ジェインの生活ぶりを毎日見ているわけではないブロックルハースト氏に、彼女の本当の姿は評価できるわけはありません。現場を知らない上司が勝手な決めつけで命令し、現場の士気を下げるのと似ています。

 そこにヘレン・バーンズがコーヒーとパンを持って現れます。食べるように進めますが、ジェインはとても食べられる気分ではありません。ジェインは冷静を保とうとしますが、耐えきれず声を上げて泣き続け、ヘレンはそばに座って静かに見守ってくれます。

 ジェインはヘレンにたずねます。

 「ヘレン、あなたはどうして、嘘つきだとみんなが信じている子と一緒にいるの?」

 そんなジェインにヘレンは、ブロックルハースト氏の言葉を信じている人はまずいない。なぜなら、彼は神様じゃないし、偉い人でも、尊敬される人ではない。ここでは好かれていないし、好かれようとも努力していない。逆にジェインが彼の特別のお気に入りになったら、周り中を敵に回していただろうと言います。

 リード家では子守のベッシーがジェインに対して良心的な部分を垣間見せたものの、雇用主のリード夫人の前では「長いものに巻かれる」状態でしたから、ジェインは支配的な人の言葉に誰もが信じて従うと思っていたのでしょうね。

たとえ世界中の人があなたを憎んで、悪い子だと信じたとしても、あなた自身の良心に照らして気のとがめることがなく、罪の意識もないのなら、味方がいないわけじゃないのよ

  ヘレンに慰められ、気持ちが落ち着いたジェインですが、時折、咳をするヘレンがなんとなく気になります。しばらく二人はその場にいると、テンプル校長が探しにきて、二人を自分の部屋へ招きました。

 校長はジェインに気持ちが落ち着いたかをたずねます。理不尽な非難を受け、今では悪い子だと思われているから、悲しみは消えないと訴えます。

 「どんな子だと思うかは、あなたが見せてくれる姿できまるのよ、ジェイン。これからもずっと良い子でいてちょうだいね。そうすれば、私も嬉しいわ」
 「そんなふうにできるでしょうか?」
 「できますとも」

  ヘレンに続き、テンプル校長も、すべてはジェイン次第なのだから悲観的になることはないというわけです。ずっと上から決めつけられていたジェインにとってこれは大きな励みです。

 校長はブロックルハースト氏が話したリード夫人がどのような人かをたずね、リード夫人が仕方なくジェインを引き取ったことを知ります。

「そうだったの。ねえ、ジェイン、知らないかもしれないから教えてあげるけど、何かの罪で責められたとき、その人は自分の潔白を申し立てることが許されるの。あなたは嘘つきだと非難されたんですから、できるだけの言葉で弁明をしてごらんなさい。まちがいないと記憶にあることはなんでも言ってかまいませんが、そうでないことを付け足したり、大げさに言ってはいけませんよ」

  リード家での不当な暴力、理不尽な対応に、感情的にときには暴力的に抗うことしか知らなかったジェインは、ここで正しい自己主張、反論や異議の仕方を学ぶのです。

 そしてジェインは、穏やかに正確に話そうと心に決め、リード家での生活、そして「赤い部屋」事件について話します。

 校長はロイド氏に手紙を書き、ジェインの話した通りであるならば、嘘つきの汚名は返上できることを伝えます。その後、磁器の食器で二人をもてなします。ジェインにとってちゃんとしたおもてなしを受けるのは初めてですし、年頃の少女なら誰でもうれしいひとときでしょう。

 テンプル校長がヘレンの体調を気にする様子を見せたことに気づいたジェインですが、校長とヘレンが話す豊富な話題にジェインは驚き、感心し、そして畏敬の念が高まっていくのでした。

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 後日、ロイド氏から返事が届き、ジェインの話が正しいことがわかると、校長は全校生徒を集め、ジェインに着せられた汚名はすべて根拠のないことだと断言してくれます。先生たちはジェインに握手やキスをし、生徒たちも好意を示してくれます。

 身の覚えがない非難と意味もなく嫌われ続ける環境で育ったジェインは、なぜ自分を理解されず、受け入れてもらえないのかをずっと悩み続けてきましたが、ヘレンとテンプル校長によってその重荷が取り払われたのは大きかったと思います。そしてこれによって、ジェインの向上心が芽生え、勉強に励みます。

 ヘレンやテンプル校長との出会いはまさに「地獄に仏」。つらい年月を過ごしてきたジェインが救われた気がします。