ずっと放置していたジェイン・エア。8年過ごしたローウッドを離れて、舞台はミスター・ロチェスターの屋敷のあるソーンフィールド。(以下ネタバレ)
ここからは多くの映像作品で詳細に絵が描かれているので、ざっくりといきたい(笑)。
ロチェスターと対面したジェイン。有名なシーンがこれ。
「私はハンサムか?」
「いいえ」
社交辞令一切なしの本音トーク。ロチェスターにとって多くの社交的なおべんちゃらな会話になれていただろうから、社交とは無縁の世界で育ったジェインの言葉は新鮮だったかもしれない。この対面後も、ロチェスターはしょっちゅう家を空けて社交界に入り浸る。
ジェインがソーンフィールドで過ごすうちにモヤモヤと気になることが起きる。
不思議な笑い声とメイドのグレイスの存在。噂によれば、他のメイドより給料が高く、彼女は他のメイドとは異なった扱いを受けていた。
メイスンという男が館に訪れたとき、館内のどこで大けが負うが、詳しいことは誰もジェインに教えてくれない。
ロチェスターのベットでボヤが起きたが、何事もなかったように片付けられる。
気になることはあるにせよ、それでもジェインはこの館で過ごすのは嫌ではないのだ。
そしてリード夫人が危篤の知らせを受けて彼女のもとに行く。リード夫人は最後まで毒夫人で、ジェーンがローウッドに行ってる間、父方の伯父がジェーン探しにリード家を訪れてきたことを隠していたと告白した。
伯父のジョン・エアはポルトガル領のマデイラで貿易商として成功していて、ジェーンを養女として引き取るつもりだったのだ。もしそれが実現すれば、ジェインはイギリスを離れ、伯父からの愛情を受け、経済的にも豊かな生活がおくれたはずだった。夫人の邪悪な魂胆のためにつらい思いをしたジェインだが、「あなたを許す」と手を差し伸べる。しかし、夫人は最後までジェインを拒絶するのだった。
ある晩、館でブランシュ・イングラムをはじめ数十名の紳士淑女を招き、ジェインをその場に呼ぶ。家庭教師をあからさまに馬鹿にしたりのビッチぶりの淑女たちは、ブランシュとロチェスターとの結婚のはなしをする。
ロチェスターはもしブランシュ・イングラムと結婚すれば、アデルは寄宿学校に入れるという。そうなれば、ジェーンは職を失う。ジェーンは不安な気持ちを抱え、ロチェスターに、初めて自分を受け入れてくれたソーンフィールドを去るのがつらいと打ち明ける。ロチェスターはブランシュ・イングラムと結婚する気はないことを伝え、ジェインを愛していることを告げる。そして身分違いを乗り越えて結婚のプロポーズをする。
ところが結婚式当日、以前、大けがを負ったメイスンがやってきて結婚に異議を唱える。そしてロチェスターには狂人の妻バーサ(メイスンの妹)がいることが判明する。あの不思議な笑い声はバーサであり、そのバーサをケアしていたのが、飲んだくれのメイドのグレイスなのだ。重婚が許されるわけもなく、ジェインはソーンフィールドを去る。
憔悴し倒れたジェインはセント・ジョン牧師とその妹たちダイアナとメアリーに助けられる。そして彼らがジェインの従妹であることが判明し、しばらく一緒に生活する。そして、父方の伯父の死によって残してくれた遺産がジェインのものとなる。遺産はジェインのみとされていたが、ジェインは従妹3人にも分けてあげた。
セント・ジョンに牧師の妻になってほしいと言われるジェインだが、心はロチェスターにあり、セント・ジョンに恋愛感情はない。申し出を断ったジェインはそこを去り、ソーンフィールドへ戻る。
館に向かう途中、近くの宿屋の主人から、ソーンフィールドは火事になり、バーサは屋根から身を投げて死亡、ロチェスターはそんなバーサを助け出そうとして大やけどを負い、片手と視力を失ったことを知らされる。
ジェインは彼と再会する。財産も年齢も健康な体でさえも愛の前には何ら障害でないと彼を諭し、結婚することを自ら誓って2人は静かに結婚式を挙げる。
あるレビューでおもしろいコメントを見つけた。おそらく若い世代の女性だと思う。
「ロチェスターは妻のことを隠して重婚しようとしたサイテー男。火災で一文無しになって、歳くってるし、しかも障害もあって介護大変じゃん。なんでそんな男をわざわざ選んだんだろう。牧師のセント・ジョンと一緒に、牧師夫人として暮らした方が絶対いいのに、男見る目なさすぎ」みたいな内容だった。
確かにそうだよねぇと思う。でも、ジェインが出会った男性で、まともだった人があまりにも少なすぎることを考えると、それがジェインの男性観に影響を与えているかもしれない。
ジェインに関わった主な男たちを振り返ってみよう。
- ジョン・リード:いわずとしれたサイコ・パス。ジェイン虐待のリーダー格
- ロイド薬剤師:ジェインが「赤い部屋」で失神した時に手当し、ジェーンに学校にいくことを勧める。リード家からの脱出を策した人物。
- ブロック・ハースト:ローウッド・スクールの経営者。まともなしつけを受けてこなかったジェインは、散々しごかれる。
- ロチェスター:ソーンフィールドの当主。ジェインを家庭教師として雇う
- セント・ジョン:ジェインの従妹で牧師。ジェーンから伯父の遺産を分けてもらう
5人のうちまともなのは3人。ロイドは親切だが、ジェインをリード家よりも安全な場所に移したにすぎない。それにロイド薬剤師を恋愛対象とみるには当時のジェインは幼すぎる。
成人してから出会ったのはロチェスターとセント・ジョンしかいない。
セント・ジョンがロチェスターより先にジェインと出会っていたら、ジェインの心は違ったかもしれない。牧師のセント・ジョンを尊敬し、プロポーズを受けてインドへついていくだろう。もしくは、サイコパスのジョン・リードの影響で歳の近い男性は恋愛対象にならなかったのかもしれない。
一方、ハンサムというわけでもなく、家を空けて社交界に入り浸り、アデルも行きずりの相手との子供で押し付けられて仕方なく養っているロチェスター。そして狂人である妻を隠してジェインと結婚しようとするいわば結婚サギ男である。
しかし、ジェインにとってソーンフィールドは(使用人たちを含めて)「初めて私を人として扱ってくれた」館であり、ロチェスターは初めて「女性」として扱ってくれた男性なのだ。
幼いころのジェインのリード家での対応を振り返れば、メイドまでもが「もう少し器量がよければかわいがられたのに」とか言ってるシーンがある。財産も身内もなく、そして美しいわけでもなく、そのために蔑まれて育ったジェインを、初めてジェインそのものを受け入れてくれたのがロチェスターなのだ。
セント・ジョンのプロポーズは牧師の妻としての信仰上(神の使命)の勤めであり、それは尊いことではあるが、そこには相手に対する愛情はなく、いとことしての気持ちしかない。
ロチェスターがロチェスターである限り、ジェインがジェインでいられるのだろう。まさにソウル・メイトってやつね