鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

ジェイン・エア 9(ソーンフィールドへ)

  英国メイドについてちょっとばかりの知識を得て、ジェイン・エアの世界へ。

 舞台はミスター・ロチェスターの屋敷のあるソーンフィールド。(以下ネタバレ)

ジェイン・エア(上) (岩波文庫)
 

 

  屋敷周辺についての描写にソーンフィールドの意味が示されている。

 屋敷の敷地とその草地の間は、掘り下げた溝の中に設けた隠れ垣で隔てられ、樫の木のように大きくたくましい瘤だらけのソーン(サンザシ)の古木が並ぶのを見れば、ソーンフィールドという名前の由来は明らかだろう。

 ソーン(Thorn)はさんざしの他に「棘」の意味もあり、荒涼とした雰囲気が感じられる。

 
 ロチェスター家の人々は、
 
 1. ミセス・フェアファクス:ジェインに家庭教師の依頼をしたのが彼女。
わたしはただの家政婦、ここを管理しているだけですのよ。
 
 細分化した使用人たちの名称を日本語に表現するのは難しいのかもしれない。
原文では、
I am only the house keeper - the manger
と述べている。彼女の役割からすると「家政婦長」といった感じ。
 
 ミセス・フェアファクスはロチェスターの母方の遠縁にあたり、ロチェスター氏の母親がフェアファクス家の出身。ロチェスター氏の信頼も厚い。
 
 いくつか映像作品からミセス・フェアファクスをピックアップ。個人的にはふっくらした体形で温和な感じの女性がイメージに近いかな。
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 2. アデル・ヴァランス:フランス人の7,8歳の女の子。フランスのオペラダンサー、セリーヌ・ヴァランスの娘。
 
 ロチェスターが過去に「熱烈な恋」をした相手がセリーヌ。恋多き彼女は多くのお相手がいて、それを知ったロチェスターは縁を切ることにした。たくさんの贈り物や援助を打ち切られると困るセリーヌは泣いて懇願したがロチェスターは怒り心頭。そして最後の切り札として娘のアデルを託す。
 
 DNA鑑定のない時代、「あなたの子よ」と言われ、心当たりがなくもないロチェスター。このあたりでなんとなくロチェスターは女を見る目がないんじゃないの的な印象を受けてしまった(笑)。一方、セリーヌは新たな男と駆け落ち。捨てられてしまったアデルを、ロチェスターが後見人として引き取ることになった。
 
  映像作品のアデル、作品が新しくなるほど年齢より大人びている。

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 3. ソフィー:アデルの子守。アデルと一緒にフランスから来た。原文では、アデルがジェーンに
Sophie is my nurse
と言っている。直訳するとNurseは看護師だが、ここではミセス・フェアファックスの管理下で、アデルの身の回りの世話をする子守的役割。
 
 4. ジョン夫妻:馬車の馭者であるジョンはジェインが最初に出会ったソーンフィールドの使用人。
 
 5.リーア:女中、お手伝い(Maid Servant) 目立たないようで、ちょこちょこ出番が多い。
 
 5.グレイス・プール:女中、30代のがっしりした体形でがさつなところがあり、酒もあおる。ミセス・フェアファクスの説明では、リーアの仕事を手伝ったり縫物をするために置いているというが、実際は女中の中では高給で、心身ともにかなりキツイ仕事をしている。映像作品のキャスティングはこんな感じ。どちらも30代に見えない....

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 ジェインがロチェスター家に到着して、ミセス・フェアファクスと会い、そして生徒となるアデル、ソフィーとあいさつを交わす。用意された部屋にジェインは感激し、ミセス・フェアファクスがロチェスター夫人だと勘違いするが、彼女には好印象を持つ。ただ、館内を案内される際、不気味な笑い声が聞こえ、ミセス・フェアファクスに注意されたグレイス・プールに対しては良い印象が持てなかった。
 
 「不気味な笑い声」とグレイス・プールの存在はロチェスター家の闇の部分を示している。ミセス・フェアファクスの話からミスター・ロチェスターに関心を持つジェインだが、この時点ではまだ本人には会っていない。
 
 ジェインはミスター・ロチェスターについて質問するが、ミセス・フェアファクスから引き出した答えは、
  • 留守がちだが、いつ帰ってもいいように屋敷の手入れが行き届いていないと機嫌が悪い
  • 気難しいわけではない
  • 借地人からも公正で寛大な地主と思われている
  • 性格は非の打ち所がない
  • ちょっと変わっている;冗談なのか本気なのか、満足しているのかそうでないのか、決めかねることがある

 ジェインにとってはイマイチな答え。ジェインはそんなミセス・フェアファクスをこう見ている。

 夫人の目から見れば、ロチェスター様はロチェスター様で、紳士であって地主であるーーそれ以外の何物でもないのだ。それ以上に何かを知りたいとか、調べたいなどと思ったためしのない夫人が、ロチェスター様その人についてもっとよく知りたいという私の願いに驚いたのは明らかだった。

 使用人の立場で雇い主のことをあれこれ話すのはためらうのも当然ではないかと思うが、若いジェインにそんなふうに見られたミセス・フェアファクスが気の毒に思える。
 
 教え子であるアデルについては、
  • すばらしい才能や際立った性格があるわけでもない
  • 感情や趣味が特に発達しているわけでもない
  • 子ども一般の平凡なレベルを一歩でも上回ることはないが下回るような欠点もない
  • それなりの進歩をみせ、生き生きした感情を寄せる
 つまり、ジェイン的に言い替えれば、「アデルはアデルであり、平凡で普通な生徒であるーーそれ以外の何物でもないのだ」ってところかな。
 
 子守のソフィーは
 ソフィーとはフランス語で話し、フランスについてときどきたずねてみたが、ソフィーは説明が得意でないため、とりとめのない退屈な返事しか返ってこず、質問する意欲がそがれてしまうのだった。
 若干、ジェインの上から目線が感じなくもないが、知りたいことが得られない苛立ちは、若く好奇心旺盛ゆえなのか、それとも彼女の育った環境(要求を否定されてきた環境)を考えると仕方ないかもしれない。
 
 ちなみにジェインはグレイス・プールにも声をかけているが、そっけない返事で一蹴されている。
 
 ソーンフィールドに来てから3カ月、いまだミスター・ロチェスターに会っていないジェインはいよいよ本人とご対面となる。