鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

すばらしい墜落

ニューヨークに暮らす中国系移民の生活を描いた短編集。

ハ・ジン著の『すばらしい墜落』

すばらしい墜落

 著者のハ・ジンはアメリカの中国系作家ですが、アメリカ生まれではなく、中国の大学で英文学を学んでいます。(この作品のオリジナルは英語で書かれたものです。)

 私は97年、99年にカナダ・バンクーバーで生活していたことがあって、多くの中国移民が暮らしていました。私は背が高く丸顔の風貌のせいか、よく中国人に間違えられ、それがきっかけとなって中国系のカナダ人と話す機会に恵まれました。

 この作品で、移民となりアメリカの文化に適応していく中でどこかでジレンマを感じている中国人たちの心情は、バンクーバーで知り合った移民たちととても似ています。母国での生活に見切りをつけ、カナダ人として生きていくと心に決めたけれど、望郷の念にかられる彼らの切なさを聞くと、違う国の人間として生きていく難しさを肌で感じました。

 この短編集は、アジア人として日本人とどこか共通するものを感じます。嫁姑問題や介護、子育ての家族の問題や、遠く離れた母国への思い。著名な中国の大学教授がアメリカ研修中に姿をくらます話などは、実際にありえそうなほどリアリティに富んでいます。また、文化や生活の違いによる苦労や失敗などの描写も鮮明で読みやすい文章で綴られていて、再読したくなる一冊でした。