鈴の文箱

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通い猫アルフィーのはつ恋

『通い猫アルフィーの奇跡』の続編、『通い猫アルフィーのはつ恋』を読み終えました。

通い猫アルフィーのはつ恋 (ハーパーBOOKS)

 通い猫として暮らしているアルフィーが住むエドガー・ロード。その住宅地に新たな家族、スネル一家が越してきます。その家族はちょっとワケアリで近所住民との接触を避けているために怪しまれてしまいます。そしてその家族が飼っている白猫のスノーボールにアルフィーは一目で恋に落ちてしまうのでした。

 前作はアルフィーを通して、通い先の住人たちの心の悩みを描いていましたが、そんな住人たちもちょっとした悩みはあるもののハッピーな生活を送っています。今作はスネル一家の悩みと近所の人たちの関わりを中心にストーリーが進みます。

 こうした市井の人たちを描いた作品を読むたびに思うことがあります。それはどこの国でもいるのよねぇとつい思ってしまう「詮索好きでお節介」な人。例えば、『赤毛のアン』のレイチェル・リンド夫人、『エマ』のエルトン夫人など。思い出すだけでも「ああ”...」と思うほどうんざりするキャラクターたちです(笑)。

 今回、この作品に出てくるグットウィン夫妻がそうです。彼らが飼っている猫のサーモンも飼い主同様、アルフィーたちから嫌われている存在です。

 グットウィン夫妻の発言には今日のイギリス事情が滲んでいます。

 「不動産屋は引っ越してくる人間の情報を明かそうとしないが、これまでのところ新しい住民は怪しい動きをしているから、われわれは複数の事実を結びつけて結論を出した。それに、こういうことはロンドンのいたるところで起きているから、きちんと対処する必要があると考えたんだ。隣人監視活動のまとめ役であり、憂慮する住人として」 

 「この通りに移民が押し寄せてくるようなことになるなら、迷惑をこうむるのはごめんだと伝えておきたいだけよ。まともな中流家庭なら歓迎するわ」

 夜中に行動することを不審に思うのは仕方ないにしても、勝手な憶測で結論づけてしまうのはかえって自分たちに不安を煽っているように思えます。

 ジョナサンが言います。

 「フランチェスカとトーマス夫妻はポーランド出身でしばらく住んでいました。でもトラブルは起こさなかった」

 それに対してグッドウィン夫人が返した言葉は

 「もちろんよ、あの人たちのときはうまくいったけれど、外国人がみんなそうとは限らないわ」

 越してきた家族が外国人かどうかまだわからないのに思い込んでいる夫人に呆れながらも、私自身もこういうところあるかもしれないと思いました。

 「日本人ならこんなことしない」と思ったとしても、その日本人の基準は極めて曖昧で主観的なものですし、すべての人たちにあてはまるものではないことはわかっているのに、そういう考えがよぎってしまうのです。われながら勝手なものだと思います。グッドウィン夫妻はまさにそういった人物です。

 この夫妻のいう「隣人監視活動」はプライバシーの侵害に近いものです。絶えず、窓から近所の人たちを監視するという変わり者。

 アメリカのドラマ『Bewitched』のクラヴィッツ夫人(↓)みたいかも(笑)。

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 アルフィーは隣人に心を閉ざすスネル一家をなんとかしようと試みるのですが、スノーボールに「ほっといて!」とうざがられっぱなし。恋煩いもあって落ち込むアルフィー。一方、友人だと思っていた雌猫タイガーが実はアルフィーに恋心を持っていたと知って悩むのですが、そこは猫。悩んでつかれたら寝る。これ、いいですよね(笑)。

 アルフィーの思い切った行動によってスネル一家と近所の人たちの距離が少しずつ縮まっていきます。タイガーはスノーボールに恋しているアルフィーを受け入れて友人としての距離を保っていきます。そしてついにアルフィーはスノーボールに告白します。

 きみほど腹の立つ猫はいない。タイガーも負けるほどだ。でもきみは最高にきれいで、きみといると生きてるって気がする。きみのそばにいると、いい猫になった気になる。きみも同じ気持ちなのか知りたいんだ

 さすがハーパーコリンズ。ネコといえどハーレクインロマンス級の告白でございます(笑)

 その告白にスノーボールは猫パンチをかませたかというとそうではなく...

 アルフィー、もちろんわたしも同じ気持ちよ。わたしのために二度も木からおりられなくなる猫なんていなかったし、花壇を掘り返したり消防士に助けられたりする猫もいなかったもの。それに、そういうことがなくても、あなたはハンサムなすてきな猫で、もうあなたなしの暮らしなんて想像もできないわ

  ごちそうさま。こんなハートフルな作品のエンディングにはこのナンバーがお似合いかもしれませんね(笑)

Vanessa Williams - Alfie (Clip)