隙間時間にすこ〜しずつ読んでいる『群像』10月号。
吉村昭著の『メロンと鳩』(1976年2月)を読了。
「かれ」は冬の雪の降る日に果実店でメロンを買います。それは富夫にあげるためなのですが、富夫は親戚なのかそれとも友人なのか、病気で入院しているのか...。
この冒頭部分ですっかり興味を引きつけられました。
「かれ」の勤め先などはわかっても「かれ」の名前もなければ私生活についても描かれていません。富夫の様子も「かれ」の視点で描かれているだけですが、読んでいるうちに私の想像する二人が出来上がっていました。このように想像をかきたててくれるのも、著者の筆力なんでしょうね。
差し入れをもらった富夫を見る「かれ」の心の中が淡々と語られ、やがて二人の関わりは静かに終わります。「かれ」が与えた数々の差し入れの中で唯一「生き物」だった鳩が富夫の人生を語っている気がしました。人の気持ちに寄り添う重さを感じる作品でした。