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鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

おおやさんはねこ

 書店の児童書コーナー。福音館書店岩波少年文庫は懐かしい作品があるので、背表紙のタイトルを眺めるだけでも楽しめる場所です。そこでタイトルにひかれて立ち読んだら面白くなってはまってしまった一冊がこれ。

 『おおやさんはねこ』

 三木卓の作品です。『震える舌』は衝撃的な作品でしたが、こちらはほのぼのとした作品です。

おおやさんはねこ (福音館文庫 物語)

 猫を題材にしたファンタジーというと、未知の国が舞台で魔法が使えて...そんな定番かと思いきや、市井の人と共生する猫(野良猫)を描いた作品です。

 主人公「ぼく」が引っ越しのための部屋探しをしていたら、格安物件のサン・ハイツを見つけます。その物件案内には、賃貸の条件に「毎日お魚を食べる人」と書かれています。「ぼく」はそこに住むことになり、ストーリーが展開していきます。

  少しお人好しな主人公の「ぼく」は猫たち(大家さん)のために協力したり、ときには尻拭いも..。猫の性格を上手にストーリーに盛り込みながら、「ぼく」と猫たちの交流をほのぼのとした雰囲気で描かれています。(以下、ネタバレ)

 お気に入りのシーンは猫のブラックがサンカク寿しの面接に行くところです。本宅に住む寿司屋の娘に飼われたいために、人間の「ぼく」に保証人になってもらい、一緒に出向くのですが、店の人に履歴書を出せと言われ、ブラックがその場で書いたのがこれ。

りれきしょ

じゅうしょ ネコノモリ1チョウメ1バンチ

なまえ ブラック

うまれた日 1977ネン 1がつ1にち

父 ヤマグチケンゾクのシャチョウのおやしきにいた大ペルシャネコの大王

母 ネコノモリコマチ のユニバース

がっこう トウキョウネコダイガク卒業

 ペルシャネコの父を持ち、ミス・ユニバースの母を持つブラックに、「ぼく」はびっくりさせられます。でも、器量がちょっと劣るブラックは気に入ってもらいたいあまりに盛りすぎてしまったようで、それじゃバレちゃうよと「ぼく」にさとされて、書き直したのがこれ。

りれきしょ

じゅうしょ  ネコノモリ1チョウメ1バンチ

なまえ  ブラック

うまれた日  おととしの とてもさむかったよる

 

父  たびげいにんの だんえもん

母  はしのしたの すてこ

がっこう  ニャンニャンガクエンちゅうたい

しごと  いぬのみはり ほけんじょしょくいん

とくぎ  きのぼり くいだめ、こうそくむだんうんぱん おどり

すきなこと  ひなたぼっこ ひるね のどのしたをなでてもらうこと かわいいめすねことのさんぽ

きらいなこと  しっぽをもってぶらさげられること おこたのなかでおならをされること かいすいよく おいしゃいき くれだまし

しょうばつ  やのしょうてんのおなかをこわした子のゆたんぽになってあげてほめられました あいされるねこになりたい

 思わずクスッと笑ってしまいます。「あいされるねこになりたい」野良猫ブラックの気持ちがそこに現れていて、ちょっぴりジーンときます。「ぼく」の協力のおかげで、ブラックはサンカク寿しの家猫に無事採用されました。

 平易で率直な文体ですが、それが読み手にさらなる想像をかきたててくれる気がします。舞台となったのは、三木氏が実際に住んでいた鎌倉市だそうですが、土地勘がなくても街の様子や住まいの雰囲気、生活の匂いが文章から伝わり、まるで身近に起きてるような錯覚になりました。とても魅力な作品だと思います。

 

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