ここ数日、著名人の訃報ニュースを耳にすることが増えた。昨日もラジオで作家で詩人の三木卓の訃報を知った。
「鶸」で芥川賞を受賞、長編小説「震える舌」(75年)は映画化された。「ぽたぽた」の児童文学作品でも賞を受賞している。
私が読んだ三木卓の作品は一作だけ。『おおやさんはねこ』である。
8年まえにブログで感想を書いた。
「震える舌」は映画を見ただけだが、あのようなシリアスタッチの作品を書いた作家が、こんなにほのぼのとした作品も書けることに軽い衝撃を受けた。
ブログ記事を読み返して気づいたことは、どうやら私は登場人物が人間より動物のほうが多い方を好むらしい。(「カロリーヌとゆかいな8ひき」シリーズなど)
過去のブログ記事と重なるが、『おおやさんはねこ』のねこたちの描写はもちろんのこと、舞台となる街や生活空間が(子供向けに)わかりやすい言葉でありながら、とてもリアルに伝わってくる。
私が好きなシーン、猫のブラックがサンカク寿しの面接に行き、そのすし屋の娘に飼われたい(家猫になりたい)ために、人間の「ぼく」に保証人になってもらうところ。履歴書の最後に「あいされるねこになりたい」。たった1行で、猫のブラックの愛情に飢えた様子が伝わる。
過去に何人かの作家の講演を聴きに行ったことがある。どの作家も言葉選びが的確でわかりやすくて、話がとても楽しい。三木卓の講演もきっとそうだったであろう。一度聴いてみたかった。心からご冥福を祈ります。