鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

トースター高跳び

 久しぶりにテレビをつけたら、おもしろい番組を見つけた。

 NHKの「魔改造の夜」である。

www.nhk.jp

 この番組を知らなかったが、今日で3回目だというので新番組なのだろう。

 今回は「トースター高跳び」。お題が「ポップアップトースターで食パンをどこまで天高く上空に飛ばせるか」。

 モノづくりの番組参加タイプのものは、民放でもよくあるが、参加チームが多いのとスポンサーでわちゃわちゃしていて、おばちゃんの集中力では見る気が失せる。しかし、この番組は参加チームは3つ。そしてなによりも妙な「地味さ」が良い。

 今回参加したのが、

  • 日本の最高学府の頂点・T大工学部
  • 東京墨田の金属加工プロ集団・下町工場の星・H野製作所
  • 世界有数の自動車メーカー・T社。

 NHKなので、参加チームの企業名や大学名をバレバレだけど伏せてあるのも、公平感が感じられる。

 生贄とされるツインバードのポップアップトースター。それを各チームのメンバーたちが、目をキラキラさせながら丁寧に解体していく様子を見ていると、日本は技術立国だよね、やっぱりと思う。

 緻密な計算とトースターを二つに割って遠心力を使おうと考えるT大、会社の倉庫の不用品を見つけ、手作りでコツコツと試作を作るH野製作所、万全の設備を備えた工房でアイディアを出し合い、いくつもの試作を作るT社。

 これだけでも楽しめる。この3チームの大きな違いは環境である。一番貧弱なのは言うまでもなくT大。試作品の実験も倉庫みたいなとこだったり、校舎の間の狭い路地のようなところで行っていた。H野製作所は打ち上げの実験は会社の外。下町の路地である。職人気質の上司たちも腕を組んで見守っている。これがいい雰囲気なのだ。そしてT社は、さすが世界の自動車メーカー。道具という道具がすべてそろっている。どれも品質の良さが光っている。

 自動車メーカーの部品販売担当だった父は、兄が理工学部に進学希望したとき、私学の方が環境が整ってよいとよく言っていた。T大の様子をみているとそれがよくわかる。私も病院の待ち時間の合間に工学部の校舎に行ったことがあるが、新しい実験棟や研究棟は感心するほどの規模ではなくて、国の予算が少ないんだなと感じた。また、私がシンクタンクに勤めていたときも、慶応卒の研究員に対して、国立卒の研究員たちが「あそこは、あの設備があるからいいよなぁ」とか「最新のナントカを使ってたのかあ、すげえ」とかよく言っていた。恵まれた環境ではないものの、偏差値90の頭脳者と緻密な計算を得意とするT大チームは「投星(とおすたあ)」というマシーンを開発した。

 H野製作所が作ったのが「Godster(ゴースター)」。二つのローラーを高速回転させてパンを送り出して高くとばせるというもの。ここはあちらこちらと職人技が光る。

 最初は木のローラーで作ったが高速回転の力でゆがみが生じるため、ステンレス製にする。金属加工のプロが作ったステンレスのローラーの美しさたるや、おおっとうなってしまう。チームリーダーは入社1年目の若手社員。ローラーを大きくしたために回転させるモーターのパワーがおいつかない。バッテリーも足りない。どうしようかと悩んでいるところへ、何も言わずにツカツカと上司がやってきて、電動ドリルをつっこんで回すと「おおぉ.......!!」。そしてドンと車用のバッテリーを持ってくる。この職人気質がいいよね~。いい会社だわ~って思う。若い世代はこういう職人気質が苦手なのかなと思ってみていたが、にこにこした表情を見るとそういう先輩社員をひそかに憧れたり、尊敬したりしているんだろうなと思った。ちなみに焼くパンまでこだわっていたのもこのチーム。

 T社が作った2つのマシーン、「地獄のローラー」と「灼熱の逆バンジー」。

 「地獄のローラー」はH野製作所と同じくローラーで垂直に送り出して飛ばすというもの。ただし、ここは2段式。4輪駆動である。

 「灼熱の逆バンジー」は原始的なおもちゃのパチンコから発想を得たもの。強弾力のチューブを引っ張り思い切り飛ばす。

 このチームはいくつものアイディアの試作を作って実験を重ねて、今回の2つのマシーンとなったのだ。ローラーの回転は電動ドリルを使ったH野製作所とは対照的にモーターを内蔵したローラー。う~ん、さすが世界の自動車メーカー。

 そしていよいよ本番。試技は2回。

 まずは1回目

  • T大 0m  パンを飛ばすタイミングがずれて、床に叩きつける結果になった
  • H野製作所 失格 パンがちぎれてしまった。また十分に焼けていなかった。
  • T社 4m65cm 4つのローラーがはじき出されたパンはほぼ垂直に飛び出した。T社の食パンはレーズン入りだった

 そして本番2回目。

  • T大 5m 前回よりもパンを放すタイミングを数十秒ずらし、無事に成功。会場が寒いためパンはしっかり焼けてはいないが、ちぎれずに飛べた。
  • H野製作所 9m95cm 前回の教訓から今回はトースターを温めてしっかり焼いて飛ぶように設定。
  • T社 5m1cm 2台目のマシンでの挑戦。パチンコからはじき出さたパンは見事に飛んで、前回の記録を更新。

 トップに輝いたのは、H野製作所となった。

 どのチームも個性が光って魅力的である。勝ち負け関係なく清々しい。

 ポップアップのトースターでパンを焼く。ポンッと飛び出すパンがどのくらい高く飛ぶのか。そんなファンタジーを可能なものにしてくれた3チームの頭脳。すばらしいではないか。そんなもの、何の役に立つ?立たないよ、だからおもしろい。こんなに楽しめたテレビ番組はひさしぶりだった。