鈴の本箱

本のこと、あれこれ(覚書)

怖くて飲めない!―薬を売るために病気はつくられる

 つい最近まで週刊誌各誌が「薬特集」を組んでいて「飲んではいけない」「医者でも飲まない薬」などなど、薬を常用している人にとって不安な文言が踊っていました。

 北米に滞在していたとき、ドラックストアの調剤コーナーはいつも人だかりで、様々なピルケースも売られていて、そのなかにサプリメントやら処方薬を入れて持ち歩いてる人を多く見かけました。当時、日本では調剤の薬は院内処方が多かったので、その光景は私にとっては珍しく映りました。

 アメリカの大都市に行くと、保険会社と製薬会社のビルがそびえ立ち、日本でもおなじみの企業ばかり。マイケル・ムーア監督の『シッコ (sicko)』、ジョン・グリシャムの『レイン・メーカーThe Rainmaker』をみてもこれらの企業がビジネスとして成功していることがよくわかります。外資系法律事務所にいたときも、ライフサイエンス部門があって、ライセンシング(特許関連)、製薬企業の買収や提携など、ビッククライアントが多くいました。

 日本は2006年ごろ医薬品販売の規制緩和があってから、いたるところに薬局がオープンし、総合病院や大学病院の周辺には何件もの調剤薬局が並ぶ光景は今では珍しくありません。最近では薬品メーカーのみならず、食品・化学メーカーも製薬事業へ参入しています。新聞の一面広告や折り込みチラシ、DMもサプリメントや健康食品、そして製薬の治験募集など目にすることも増えました。

 

 ブックオフに立ち寄ったときに見つけた一冊。隙間時間にチョロチョロ読んでやっと読了。

 レイ・ホイニハン著 『怖くて飲めない!―薬を売るために病気はつくられる』

怖くて飲めない!―薬を売るために病気はつくられる

 この本は2006年に単行本出版され、のちに文庫化されたものです。原作は2005年出版です。

 こうした本に興味を持ったのは母の病気がきっかけでした。私の母は糖尿病を患っていてインスリン注射といくつかの錠剤を飲んでいます。インスリンのきっかけは交通事故で、車で接触して負ったけがは軽症で済みましたが、そのときの血液検査で血糖が異常に高いということでインスリンを打たれたのが始まりでした。けがは良くなったものの、体調がすぐれず、めまい、嘔吐が頻繁に起きました。1日3回打つものの、食事は他の患者(整形外科)さんと同じ。けがで運ばれたのに、日に日に体調がすぐれない母に1日3回インスリンを打っているのが不安になり、都内の総合病院の糖尿病代謝内科に移ることにしました。

 そのとき診てくれたS医師は、精密検査後、インスリンの種類と量を調整しました。食事についてはかなり厳しい指導がなされ、母の食事の嗜好は健康食へとシフトしていき、少しずつめまいや嘔吐が減りはじめました。運動量や睡眠時間、また皮膚の注射痕なども細かくチェックしてくれました。それから7、8年後、S医師が他病院に移ることになり、距離的にも遠くなったこともあって、地元の病院に処方を引き継いでもらうことにしました。地元の担当医Y先生はS医師の後輩です。しかし、Y医師の診察はいつも簡単なもので食事も運動量も問診のみ、注射痕を見ることもなく、母にしてみたら「とてもやさしい」先生です。薬の処方は以前と同じで何年か続いたのですが、あるときコレステロールを下げる「クレストール」が1錠から3錠に変更されていました。

 「コレステロール値が高いの?」と聞いても「先生は何も言わなかった」と母。確かに地元の病院に移ってから、以前より母は食事に気をつけなくなったようで、お惣菜も揚げ物が増えたような...。

 「揚げ物食べても大丈夫なの?前より食事制限がゆるくない?クレストールは高脂血症の薬なんだよ」

 「だって、先生は特にコレステロールについては何も言わなかったよ。血糖も安定してるし調子がいいって言ったもの。」

 3錠処方になって1年が過ぎた今年の春ごろ、いつものように病院から帰ってきた母が栄養士が書いたメモを見せてくれた。

 「カリウムの摂りすぎって言われた。野菜も食べすぎないほうがいいんだって。」

 「カリウム?腎機能が下がったとか?」

 「腎臓なんて言わなかったわよ。とにかくなんでも食べすぎはだめなのよね」

 こうなると野菜嫌いの母には好都合。「かぼちゃ、ブロッコリーやめとく、ホウレンソウもやめとく。生野菜のサラダはだめだって。」でますます野菜は食べない方向へ...。そして足も攣るようになりました。

 

 ちょうどこの本を読み始めたころで、コレステロールについての章で「クレストール」のことが書かれていて愕然としました。

この薬の服用者が筋肉の障害や、ときには腎不全を経験しており、そうした症例は数こそ少ないけれど増えつつあるという報告が相次いでなされている。クレストールと、筋肉の障害や腎不全との関係が示唆される症例がまれにあることは認めているものの、販売元のアストラゼネカ社はこの薬は他のスタチンと同じく安全であると主張し、「不当な懸念」を引き起こしたとしてパブリック・シチズンを訴えている。しかし、2005年初頭、同社はこの薬に関連している可能性がある死亡が一例報告されていることを規制当局に通知した。

  直感的に「ヤバイ」と思いました。母は医者のいうことは正しいと思い込むほうなので、最初の処方の1錠に戻したら?と言いたいのですが「あなたは素人でしょ!」とおこられるのは目に見えています。「やさしい」先生のほうが、実娘の戯言よりはるかに信頼できるのですから(笑)。

 まもなく、朝刊の広告欄に週刊誌の「薬」特集が出てきて、「クレストール」が見出しに出ていました。

 「ね、危ない薬に入ってるよ、ほら」

 「え?やだ、こわい。」

 「今3錠でしょ?3錠飲み続けても大丈夫なのかね?」

 「だって、薬の説明は先生じゃなくて薬剤師だもん」

 「それは飲み方の説明でしょ?3錠に増やすってことは前より体調が悪いから増やしたんじゃないの?」

 「.....」

 「S先生の処方は1錠だったよね。そのときはコレステロールも注意されなかったし、体調もよかったし、カリウムなんて言われたことなかったじゃない?足もしびれてなかったし...」

 「そうねぇ...そうよね...」

 「試しに前の処方に戻して1錠にしてみたら?それで来月の検査でカリウムが下がってたら1錠でも大丈夫かも」

 「そうだね、そうしようかな」

 Y先生には内緒でこっそり1錠だけ服用して1ヶ月過ごした後、検診を受けたらカリウムは基準値範囲内に戻りました。その後もこっそり1錠服用ですが、カリウムについてはそれっきりでした。

 そして先週、長年使用していたインスリンの薬剤と注射が変わりました。クレストール同様、「新しいインスリンにしますから薬剤師に詳しく聞いてください」だけで変更理由は不明なまま。薬剤師に聞いても「医師の処方だから」の一言。

 そこでネットで調べたら特攻性の強いものとされていて、使用している人は1日中高血糖が続く人が多いようでした。どっさり処方された薬のなかに頓服としてブドウ糖の錠剤が入っていてそれにもびっくり。つまり、強いインスリンを打って低血糖になったらブドウ糖を服用せよということです。

 こうなったら以前のS医師の元へ行くしかないと思い、S医師のいる病院を訪ねました。S医師の診断ではY医師が処方したインスリンは母の現状ではやや強いということで、薬の処方を見直してもらい、乱れはじめた食生活に再び喝を入れてもらいました。Y医師への連絡はS医師がしてくれるというので、無事に転院することができました。

 素人が勝手に判断するのは決してよいことではありませんが、素人なりに「あれ?」と疑問に思うのは大事だと実感しました。

 

 この本の第1章は先述したコレステロールについて「値」についても触れています。

 高コレステロール低下薬の売り上げはこの10年間で急増したが、それは「コレステロール値が高い」と定義される人の数が天文学的に増えたからだ。他の多くの医学的状態と同じく、高コレステロールの定義も定期的に修正されており、これまた他の医学的状態とおなじくその定義の幅がどんどん広がっていて、健康な人々がどんどん病人にされている。

 この本の原作は2005年ですから、「この10年」というのは1995年からとなります。その20年後のいま、日本でも同じような状況が起きているのではないかと思います。自分にとってどの値がベストなのか実はよくわかっていないのに健康診断などのコレステロール値に一喜一憂し、値が高ければ薬を飲み、値が「高め」なら「コレステロール0」の食品を選んだりして...。

 この「高め」というのも「高い」わけではないんですよね(笑)第5章の見出しがまさにそれです。

「病気のリスク」を「病気」にすりかえて売り込む

  高血圧も然り。血圧高めの人の特保のお茶が出ていますが、とある製品の広告を見ると、血圧高めの定義は正常高値血圧値(収縮性血圧)130~190mmHGとなっています。でも、年齢、性別、持病の有無によって値は異なりますし、測定器によっても誤差は生じます。自分にとっての「高め」とはどれくらいの値か知っている人はどれくらいいるのでしょう。お茶ぐらいなら飲み続けても副作用の心配はないですが、「高め」で薬が処方される場合は...。ちょっと怖くなります。

 高血圧の基準値もだんだん低くなっていると本書でも指摘しています。とある心臓病についての講演会でのこと。

ここにいる多くの人が高血圧といわれているけれども、高血圧は実は病気ではなく、将来心臓発作や脳卒中を起こしやすいかどうかを示すリスクファクターのひとつにすぎない。彼らは今夜まっさきにそれを学ぶ。コレステロールとおなじく、血圧にも大きな関心が集まっているが、それは薬で簡単に下げることができるからなのだ

  高血圧が高い=心臓発作や脳卒中のリスクファクターがある。心臓発作や脳卒中にかかる確率を少しでも減るなら薬を飲むというわけです。でもその確率は服用期間とどれだけ密接に関わっているかは不明ですが、医師からそう言われたら大概の患者は疑いなく服用するでしょう。

 

 サプリメントや特保商品が増えたせいか、薬の服用もなんとなく手軽になっている気がします。これは宣伝やマーケティングの影響も大きいと思います。生活習慣病ならまず生活習慣を治すのが先決ですよね(笑)。不安に煽られて飲んでも害がなければいいのですが、「副作用」を孕んでいること忘れるなと警告してくれた一冊でした。