鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

将来予測

 勤めていたころ、ときどきランチに誘ってくださった上司がいた。ある日、彼女の母親が認知症になって施設に預けることになったと聞いた。

 当時の職場は、その上司をはじめ未婚独身が多かった。親の介護を実感する前の段階から、介護になったら自分たちにのしかかることはわかっていた。

 その上司は父親が亡くなるまで実家から通っていたが、亡くなってまもなく、マンションを購入して家を出た。実家は弟夫婦がいたので心配ないはずだったが、まもなく母親がぼけ始めた。そして姉である上司を頼り始めた。マンションを買った彼女の経済力に頼りたかったのか、独身だから時間に余裕があると思ったのか、こういった家族の思い込みは未婚独身たちの共通の悩みだった。

 「外資系企業だから給料いいし、結婚しないで子供もいないから家族を養う苦労もなく、いつもおしゃれして、海外旅行するぐらいの余裕があるから.....」

 一人暮らしをしている彼女たちが、帰省するたびに浴びせられる言葉である。給料が良い分、経費もかかることを知らないのだろう。都市部近郊の家賃や物価は安いわけではない。また企業カラーにもよるが、カジュアルOKとはいえ、私の職場では「ナイス・カジュアル」といって、ジーンズやかかとの支えのないサンダルはダメだったし、カジュアル過ぎたラフな格好をしていると「どうしたの?」と言われる。クライアントの打ち合わせではジャケットを羽織る。おしゃれというより身だしなみを整えるための経費が結構かかる。時差を超えてのビデオカンファレンスや昼夜問わずのメールのやりとり、社内での競争も激しい。労働の対価としての給料はラクして得られるものではない。海外旅行でリフレッシュもあるが、外国語のブラッシュアップ目的の人もいるのだ。

 そんな彼女たちは数年前まではさんざん結婚しないことを責められていた。帰省すれば甥や姪に小遣いなどをねだられ、上京してくればホテルの手配までやらされる。

 「帰省なんて、オリンピックイヤーの年しかしない。それで充分だわ」と言っていた同僚もいた。それでも、親の介護が迫ってくると面倒みなければいけないようなプレッシャーがかかってくるのだった。

 一方、私のように実家暮らしは、丸抱えである。徐々に弱っていく親の姿を見ながら、漠然とした将来予測が現実味を帯びる。

 ちょうどその頃、Nスペで「老々介護」が特集されていた。www2.nhk.or.jp

 91歳の母親の面倒を見る68歳の息子の様子が淡々と映される。将来、自分もこうなるんだろうなと思いながら見たのを覚えている。

 そして、その予測は的中し、孤軍奮闘の毎日である。私には疎遠の兄がいるが、兄夫婦が介護に関与したところで、横やりが入るだけでかえってこちらの負担が増えるだけだ。

 母が退院してちょうど1か月たった。入院中の2か月半はあっという間に過ぎたのに、退院してからの1か月はひどく長く感じた。忙しいというより、気が休まらない。あれこれ考えすぎるのかもしれない。猛暑もあって、自分の身体が若い時ほどタフに動けないジレンマもある。自分の時間がとれないのもストレスになっている。

 前回、風呂でキレてから、感情の距離をおくことにした。怒りのマグマを静めるには、親ではなく一人の老女として客観視することにした。何を言われても「数分後には違うことを言うだろう」と思うと、あれこれ先回りするのはムダなのだ。

 今朝の食事も「なんでもいい」というので、その通り、昨夜のみそ汁を温め、残りご飯でおにぎりを作り、卵焼きを焼いた。食卓の貧相な皿数に、なによ、これといった表情を浮かべた。以前はそんな表情に気を使っていたが、なんでもいいって言ったんだから文句なしだよんと心の中でつぶやく。いやな顔をしつつもペロリと平らげたので、こちらもさっさと洗い物を済ませた。

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  今週末、還暦誕生日を迎える。先日、毎年お札をいただいている神社から「誕生日祭」の案内がきた。お盆生まれの私を祝ってくれるのはご先祖様と神社仏閣しかいないが、ありがたいことではないか(笑)。