鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

娘の結婚

  見逃し配信で『娘の結婚』というドラマを観ました。

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 中井貴一演じる父親と娘(波瑠)という設定で、妻亡き後、男手ひとつで娘を育て、年頃になった娘から「会ってほしい人がいるの」と紹介された男性は、かつて住んでいた隣人の息子。息子に不満はないが、その母親がトラブルメーカーらしいと知り、将来の姑と嫁の関係を考えると父親としては悩みどころ。友人や大学時代の恋人などに相談したり、直接彼の自宅を訪問して父親同士で話したり、徐々に真実がわかってハッピーエンド。
 
 ドラマ用に脚本が書かれた作品かと思ったら、原作があることを知りました。
 『娘の結婚』 小路幸也

娘の結婚 (祥伝社文庫)

 原作も読んでみたいですね。
 
 小津安二郎の『晩春』や『麦秋』を現代版にしたらこういう感じかなと思いました。 家事一切のほとんどが父親まかせで、ごく普通のOLである娘は、結婚を意識してから、父親の得意料理のレシピを教えてもらおうとするなど少しずつ変化の兆しを見せます。その変化に父親がもやもやするあたりはほほえましい。娘が風邪をひけば甲斐甲斐しく看病する姿は現代のシングル・ファーザーといった感じで、愛情が感じられます。
 
 再度、小津作品も見たくなってこの二作品を見ましたが、父親は当然、家事などしません(笑)。しかし、どちらも父娘をとりまく人間関係、とりわけ父親の友人や親せきらが二人をそっと応援していく様子があって、そういう人とのつながりがうらやましくもあります。
 
  『晩春』も父と娘の二人暮らし。父親が一人になるのを心配して結婚するのをためらう娘に、父親は再婚するから心配するなと一芝居うちます。杉村春子演じる叔母さんの役割も大きいです。

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 『麦秋』は父親より兄があれこれ仕切っていて父親の存在が薄いように思えましたが、娘が近所に住む子持ちの男性(妻とは死別)と勝手に結婚を決めてきて家族を驚かせます。寡黙な父親が翌日、路肩に座って踏切待ちをしながらぼんやりと物思いにふけり、踏切が上がったのも気づかないシーンは印象的です。
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 社会の風潮や生活様式は変わっても、父親が娘の結婚について悩む姿は変わりません。私は二十代で父を亡くしたので、もう少し長生きしていたらなぁとちょっと感傷に浸った作品でした。