鈴の文箱

日々の雑感(覚書)、本のこと(ネタバレあり)

母の気持ち

 昨日、無事に介護申請を終えた帰宅途中で、母の病院から電話があり、担当医師から病状の詳細説明があるので来院願いたいとのことだった。

 今日の午前中に担当医師から説明を受けた。心不全は軽減の傾向があって、胸水もなくなり、本人は普通に食事が取れている。しかし、腎機能がかなり低下して深刻な状態で、透析も視野にいれて専門医と相談すると言われた。糖尿病の影響もあるし、ちゃんと治療しなかったのもよくないし、なにより90歳の高齢という老化もある。血管も狭窄があれば透析が難しいかもしれない。となれば・・・。いつかはこういう日がくると覚悟していたが、いよいよ現実味を帯びてきた。

 説明後、ナースが今日から車いすでリハビリ開始したので、面会できるといわれ、母に会った。今回は息苦しい状態で入院したので不安も大きかったのだろう。にっこりと笑顔を見せた。

 一通りおしゃべりをした後、母は兄のことを聞いた。

 「○○(兄の名)に連絡した?」

 「したよ。救急で運ばれて処置しているときに、メールした。」

 「返事は?」

 「承知しましたって一言だけ」

 「この病院も知らせたんでしょ」

 「もちろん。ただ、病状はまだ検査中だったから伝えてないよ」

 「いい、いい、それでいいわよ。」

 K叔母のことを話そうか迷った。あまりストレスをかけたくないが、入院先を知っている以上、何が起こるかわからないので、あらかじめ伝えたほうがよいと思って、おちゃらけながら打ち明けた。

 「それがね、兄ったら病状もわからないまま、誰に話したと思う?K叔母だよ~。入院したその夜、さっそく電話がかかってきて、もう勘弁して~ってかんじぃ~」

 すると、母は「ばかだねぇ~、ほんと、ばかだね」といつものように返した

 「やたら親戚にペラペラ話すのは母は望んでないんだよって言ったらね、じゃ、俺に連絡するなってキレちゃって、あいかわらずだよね~」と軽く流す

 「入院してることも、入院先も伝えたならそれでいいよ、これ以上何をいっても無駄無駄」

 そう言いながらも、見舞いに来てほしそうな様子が伺える。

親の介護をしている人のイラスト

 「○○ちゃん(兄嫁)は?」と母が聞く。

 「何も言ってこないよ。私は兄しか伝えてないけど、兄がK叔母以外に誰に伝えたかは知らない。こちらから誰か伝えたい人がいたら連絡するよ」

 「いない、いない。みんな歳とって人の見舞いどころじゃないだろうから」と笑った。

 母がいまもどこかで兄に期待している様子がわかる。それが時には痛々しい。

 兄はK叔母同様、人の気持ちを察することができない。むしろそんな母の気持ちを利用するのだ。K叔母の電話の後、兄に腹が立った私は「親戚に伝えることは母は望んでいないことで、必要な場合は私が直接話すので心配しないでほしい。忙しいのに叔母の興味本位の電話は迷惑である」とメッセージを送ったら、こんな返信がきた。

 貴意はわかりました。私に情報提供いただいたことについては、今後も私の判断で必要に応じて関係者と情報共有します。母が実の妹からの電話を迷惑と考えるような件であれば、私に対しての連絡も不要です。

 論点ズレズレなのである。私は肝心の病状をあえて伝えなかった。そんな情報に兄は不足を感じなかったのである。それにペラペラ親戚に話すことを母が望んでいないのは毎度のことである。K叔母の電話を迷惑と思っているのは私であって母ではない。連絡不要と言った兄は、母の病状など全く関心がない。そもそも家族の病気やケガに対して全く関心がないのだ。

 私が中学のときの骨折入院で退院した日の第一声が「なんだよ、ずっと入院してりゃいいのに」。父が危篤だといっても病院に行かず、ずっと家にいて臨終にも立ち会わず、母が胆石手術したときも、交通事故で入院したときも病院に見舞ったことなど一度もないのである。

 それでも心のどこかでまだ兄に期待している母。今まで盲目的に兄を信じている母に対して、怒りや苛立ちがあったが、今日はとても不憫で可哀そうに思えてしまい、つい涙ぐんでしまった。

 一人っ子の人から「ご兄弟がいて心強いでしょう」と言われたことがあるが、心強いどころか憂鬱と孤独感しか与えてくれない存在なのである。

 仲の良い兄弟姉妹がいる人が本当にうらやましい。